「じっとしてろ、ギタギタに犯してやるよ」
「はぁ…」

 どうリアクションしても怒られそうなので、クロスに任せる事にした。
 グッと両足を掴まれ、広げられる。突っ込まれるんだろうな、と覚悟していたら、いきなり雄の部分を生暖かい感触で覆われた。ざらついた快感に身体が跳ねる。

「う……あ…っ」

 反射的に口を両手で塞いだ。が、チクッと痛みが走る。クロスに少し噛まれたのだ。
「動くなと言ってるだろうが!」
「は、はぁ…」
 睨まれた。怖いなぁと思いながら、仕方なく同じ体勢に戻る。後で腫れないといいけど。

「ふっ…ああっ、はっ」

 しかし、口を塞げないのはツライ。自分の情けない声が狭い空間に響き渡る。それが少し恥ずかしいが、同時に興奮もする。今、自分はクロスに犯されてるのだ。プールのフェルトの下の木が堅くて痛いが、それも次第に気にならなくなっていく。
「ああっん……はぁ、あ! う」
 足がガクガクしてきた。吸われる。扱かれる。好きなようにされている。気持ちいい。たまらない。

「んんっ、あ!」

 人間が好きだ。
 
 でも、人間を殺すのはもっと好きだ。だからセックスした相手と長続きしない。いつもその場限り。
 だって、俺って、つい相手の心臓とか内臓、握りつぶしちゃうんだよねぇ。
 抱き合ってると、相手と一体になりたいと思うじゃない。解け合ってしまいたいと思うじゃない。相手をもっと深く感じたいと思うじゃない。

 俺はそれが可能なんだよ。出来てしまって、うっかりやっちゃった!と思った時は後の祭り。感じさせ過ぎちゃって御免ねぇという展開が毎度。
  悲しいねぇ。切ないねぇ。まぁ、仕方ないけどね。自制しちゃうと、セックスってつまんないんだもん。死んじゃったらゴメン!て、事で。


 指を入れられる。締め付ける。自分から腰を動かす。掻き回され、その間もしゃぶられたまんまだ。馬鹿みたいに俺はよがっている。
 
ヤバイよな。理性飛んだら、ゴメンね、マリちゃん。

「ふっ、あっ、あっ、は、早く!」

「…慣れてるな、ティキ」
「いいじゃん。それが我が職業」
「ん?」
「性(せい)も死も、俺は手で感じる事で済ませてるんで」
「ハハ」
 珍しくクロスは本気で笑ったように見えた。足を上げられる。腰の下に俺のズボンが突っ込まれた。チェッ、しわになると思う間もなく熱いものが身体を裂く。ググッと内臓が上にせり上がった。強引に何かが押し入ってくる。
  この瞬間だけは常に馴れない。出血の恐怖と軽い屈辱感。そして、それが終わると、陶酔へのカウントダウンが始まる。

「あっ、んん、クロス!」

 クロスは呼んでも応えてはくれない。でも、もっと足を折り曲げられて、より深く繋がる。体重がのしかかる。抱きしめさせてはくれないけど、でもクロスがここに、俺の中にいるのは感じる。俺の中を蹂躙し、抉り、引き下がり、また侵入するのは解る。

 お互い仕事で人生、そうやって出入りし合ってきた。敵同士だと知ったのは、実は最近の事だけど余り驚かなかった。俺達の仕事って、別 にノアとエクソシストでなくても、そんなもんだったから。どの世界にも対局の陣営がある。人間世界でも、企業でも、ヴァチカンと異教徒の間でも。
 ビジネスライクでやってきて、気がつくと、世界の存亡がかかっていたって事なんだ。まぁ、そうでもないと俺の特殊能力なんて使い道ないと思っていたから楽しさが増した。

 けどね、クロス。

 それだけで終わったら、ちょっと悲しいと思った訳だ、俺は。性も死も俺の手の中で終わる。いずれあんたの命も終わる。俺の手の中で。

 だから、その前にあんたの事をちょっとだけ覚えておきたかったんだよ。手以外の部分でさ。
 あんたは俺が手札を誤魔化したのを見抜いてたよね。だけど、何も言わなかった。本当はあんた、優しいんだ。気持ちよくしてくれてるし。

 だから、ゴメンね、クロス。
 死んじゃうけど。

「あっ、あっ、んんっ!」

 意識が飛ぶ。気持ちいい。俺の中のノアの部分。俺の人間部分だけが消えて、ノアだけが顔を出す。あらゆる対象を突き抜け、突き進み、必要なものにのみ触れる能力。自分の最も知りたいもの、触れたいもの、手に入れたいものに達する俺の能力。
 その手がクロスの身体を難なく貫いた。天井高く突き上げられる。殺す時、相手に痛みを与えないのが救いだ。
 クロスの鼓動を感じる。クロスの心臓の色はどんなだろう。クロスの鮮血はどんな色だろう。
 ノアの黒い淀んだ目がティキから覗いた。口が忌まわしく歪む。

「…は…」

 ティキは瞬きした。喉元を見下ろす。クロスが彼の頸動脈に食らいついていた。目が合う。

「その手を下ろせ」
 冷ややかにくぐもった声がクロスの意志を伝えてきた。

「そんな事をしても、俺は死なないよ?」
 ノアの目が蜘蛛のように嗤った。
「どうかな? 俺が貴様を囓らないようにしてみるか? 俺の歯が貴様をすり抜けるように命じてみるか? 俺の手が貴様の金玉 を握り潰すのを擦り抜けるようにしてみるか?」
 クロスはグイとティキの体内で自分の存在をアピールした。下半身からジワッと快感が戻ってくる。

「ベッドから擦り抜ければ、俺はお前に触れられないし、殺せないだろう。だが、同時にお前の腕も俺の中に残れなくなる。その瞬間、俺はお前を殺せるぞ?
 お前はあくまで人間だ。こうやって、結合してる限り、俺の歯だけ通過させるなんて器用な真似はできないのさ。それが手前の弱点だ。

 人間が好きだとお前は言ったな。お前はそうやって、人間の命に触れる事で人間を知った気になっている。性と死と司った気になっている、その手の内で。

 だが、違う。お前は傍観者に過ぎない。お前は全て擦り抜けて、何も触れられない。本当の意味では。お前には何もない。何もだ。
 俺達は永遠に触れ合えないんだ、ティキ。そんな事も解らなかったのか?」

 ノアの目が驚きで見開かれた。その目がティキの漆黒の人間の瞳に戻る。
「違う」
「違わない。手を下ろせ」
「違うんだ。俺は…」
「手を下ろせ。続きをさせろ。せめて最後まで」
 ティキは手を下ろした。


「憎たらしい、やっぱりあんたって」


 ティキはプールの上で寝転がったまま、言った。クロスは笑う。
「だから、言っただろう。死の螺旋しか俺達の間にはないと。お前も解っていたはずだ」
「そうなんだけど、やっぱり憎たらしい」
 ティキは仰向けになり、肘をついた。

「人の塵芥に混じって出直してこい。気が向いたら抱いてやる」
「あら、これきりじゃないの?」

 ティキは目を見張る。クロスは団服を羽織った。
「お前がこれきりで済ませるとは思えないからな」
「ふふ…」
 ティキは肩を竦める。
「だが、今度、俺をマリちゃんなどと呼んだら八つ裂きにしてやるぞ」
「怖〜、やっぱ、あんた、怖いね」
 ティキはニヤニヤ笑い、ちょっと小首を傾げた。

「じゃ、マリぽん、なんてどう?」

 ナイフがプールに突き刺さった。ティキの姿がかき消える。笑い声だけが撞球場に残った。


「…ったく」
 クロスはナイフを引き抜いた。カジノに戻る。テーブルを見ると、アレンのゲームが佳境にさしかかっていた。青ざめた貴族達の間で美少女が独り優雅に笑っている。
「ま、勝手にやってくれ」
 クロスは欠伸して、グラスを取り上げた。酒がない。ティムが少しへべれけになっている。
「この、どいつもこいつも」
 ティムをひっぱたき、クロスはボーイに向かって、お代わりの指を鳴らした。

エンド

おしまいです。
サイト掲載に当たって、コピー本をちょっと手直ししましたが、
大して変わらないねぇ(笑)

余り世間で見かけないクロス×ティキですが、いかがでしょうか?
俺は嫌いじゃないけどね、このカップル。
ティキアレンだと、すぐおしまいになりそうで(笑)

ティキって、本当にしたい事が何なのか、まだよく解ってない人がいいです。
殺人も確かに好きだけど、彼にとっては余りに簡単な事だから、
もっと面白い事が見つかったら、ふらふらそっちに行くんじゃないかな。
エクソシストを全員殺し終わったら、サッカーでも始めよっかなとか言って
伯爵を困らせたり、ロードたんに困らされたりしてたら、よいです。
ティーズは炭坑のカナリア代わりに飼ってるつもりが、
何となく気に入ったんで殺さないでおこ〜かで、今に至る。
何でもふらふら。そんなに信念は持ってない、隣近所にいるふつーの超人(笑)

とりあえず、うちのティキはクロスが好きです。
殺しにくいから(えー)


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