「朝」




「ラビ〜?」


 ノックしたが、返事がない。
 アレンはドアを開けると、部屋の中を覗いた。だが、部屋の主はいなかった。水音に顔を向ける。シャワーを使っているらしい。

「なーんだ」
(朝のキスをしようと思ってきたのに、珍しく早起きなんだから)

 アレンはベッドに腰を下ろした。ベッドや椅子にはラビの服が散らかっている。こういう所は師匠に似ているなと思いながら、服を畳もうと拾い上げた。
 と、ふと何かがヒラリと床の上に落ちる。

「………?」

 アレンはそれを拾い上げ、何の気なしに見て立ちすくんだ。


(…………神田)


 ひさしぶりに見る神田の顔だった。しかも寝顔である。口を軽く開き、長いまつげが秀麗な顔に影を落としていた。完全に熟睡している。こんな無防備な寝顔をアレンは見た事がなかった。しかも、あの神田である。ラビはこんな顔を見せてもらえる程、神田と仲がいいのだろうか。

(………そんな)

 考えれば、神田を『ユウ』と呼べるのはラビだけだ。ラビはアレンを好きと言ってくれたけれど、神田との方がつきあいが長いし、神田の事をどことなくいつも気にかけている。こんな風に写 真を持っているのは神田の事を想っているからだろうか。


(僕には写真なんて欲しいなんて言ってくれた事ないもんね)


 アレンは写真を見つめたまま、ベッドに座り込んだ。
 こんな写真を撮れる、という事は神田とラビはそういう関係という事なのだろうか。そう思うと少し涙が滲んだ。今はアレンを好きとしても、少なくとも終わってしまった関係ではないという事だろう。


(見なきゃよかった)


「何してるさ、アレン」

 項垂れている彼の白髪に突然、声が降ってきた。慌てて顔を上げると、ラビがタオルで頭を拭きながら、彼を見下ろしている。

「………いえ、別に」
「別にって、顔じゃないさぁ。どしたん?」
「何でもありません。……ブックマンが呼んでましたよ」
 立ち上がりかけたアレンの手をラビは握って止めた。
「熱っつい手ぇ。泣いてたん?」
「何でもありません。泣いてなんかないですよ」
「アレンさー……」
 言いかけたラビはベッドの上の写真に目を留める。慌ててそれを掴み上げた。

「あー、俺のコレクション!」
「コレクション?」
「そー、大事なお宝写真」
「お宝……」
 アレンは絶句した。やはりそういう事なのか。


「他にもあるさー、見る?」
 ラビはバンダナの円の部分に手を突っ込んだ。ポケット状になっているらしく、写 真の束を掴み出した。殆ど神田だが、リナリーやデイシャの写真もある。全部寝顔だ。よく見れば、ベッドは僅かで、ベンチや駅の待合室や野外など居眠りの写 真ばかりである。


「……何ですか、これ」
「だからさー、最初出会った頃、ユウの奴、イヤな野郎でさー。何か凹ましてやろうと思ってんだけど、なかなか隙なくてさー。口でからかうのも飽きてきちまったし。
 で、ユウって任務の合間に巣を作って居眠りこくだろ。盗撮写真で怒らせて愉しもうと思ったんだけど、何だかこっそり写 すのが快感になっちまって。
 最近は他の奴のも集めてんの」
「……………」


 アレンは呆れた。ラビらしいな〜とも思う。H系の写真でないあたりがご愛敬だ。

「神田に見せた事あるんですか?」
「あるよー。いきなり破きやがったけどネガあるしー。探索部隊やヴァチカンの司教あたりに結構いい値で売れるさー」
「悪、ですねぇ」
 アレンは肩をすくめた。ニコと笑う。


「ところで、僕のもあるんですか?」
「ない」
 ラビはあっさりニコと笑い返した。
「アレンの寝顔は毎晩見れるのに、何で写真撮る必要があんのさー」
「へぇ」
 アレンはまたニコと笑って、左手を発動させた。
「何処に隠してるか、チャチャッと白状しないと、僕の左手が唸りを上げますよ?」
「ア、アレン〜、タンマさー……は、話し合おうや」
 ラビのニコニコ顔が引きつった。
「問答無用です」
 アレンはまたニコと笑う。
「わ、解ったさー。キツイな、アレンは」
 ラビはコートの胸ポケットから写真を取り出すと、アレンに渡す。
 が、それは寝顔ではなかった。


 普通に微笑んでいるアレンの顔だった。盗撮ではあったが、自然な素のままの顔だった。


「……これ?」
「寝顔じゃないだろ?」
 ラビは笑った。
「とてもいい顔だから残しておきたかったさ。俺の一番心臓に近い所に」
 ラビは自分の胸をつついてみせる。

「いつか、本当の笑顔を撮ってやりたいと思ってる。それが俺の目下の一番の夢」

「………ラビ」
 アレンはラビを見つめた。



「だから、許して。俺の一番の恋人」


 アレンは思わず笑い出した。そっと、彼の頬に両手を添えて、ラビの唇を塞ぐ。


「だまされてあげます。僕の一番の恋人」

エンド


かわいい!を目指しました。
ラビアレはひたすらかわいく。
原作はラビアレまでも遠距離恋愛に入ったけど、 まぁそれはともかく(笑)

ラビお題へ

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