「心の拠り所」



「そういやさぁ、新人てどんな奴さ? 白い髪のかわいこちゃん。左手が寄生型って初めてだな。いきなりユウと組ませるなんて、コムイも人が悪いさ」


 神田は胡乱な目をラビに向けた。ラビはブックマンの後継者であるせいか、それとも元々がこういう性癖なのか非常に好奇心が強い。会話が巧みであり、洒脱で、人の心理の機微を掴むのもうまく、至って快活で、彼の笑顔は人の警戒心を解いてしまう。もし、エクソシストでなかったら、いい新聞記者になっていただろう。
 神田は自分自身をほじくり返されるのが大嫌いなので、さすがにラビも過去やプライベートについては踏み込んではこないが、それ以外はかなりズカズカ追求してくる。
 久しぶりの若い新人、しかもあのクロス元帥の秘蔵っ子となれば会ってみたくてたまらないのだろう。
 だが、何となく面白くなかった。苦労してきた割に人擦れしてないアレンはラビの気に入りそうなタイプだった。ラビは人を振り回すのが大好きだ。邪気のない憎めない笑顔で、人をからかったり、おもちゃにしたりしながら、あっさりと人の心を蕩らしてしまう。人淋しい瞳をしたアレンなどひとたまりもないだろう。
 だから、会わせたくも教えたくもなかった。アレンは人当たりがよく、素直で甘っちょろい奴かもしれないが、そんなのは上っ面 だけで、どうして手強い強情極まりない性格をしている。負けん気が強くて、優しくて、奥深い。
 最初に自分が出会ったのだ。任務遂行のみ優先し、頑なで人を拒絶する事でしか、人と触れ合えなかった自分と真っ向から対立し、意志を貫いたのは彼だけだった。
 アレンなどどうでもいい。好きですと繰り返される愛の言葉も、付きまとう視線も受け容れる気持ちはない。
 それでも、ラビに簡単に情報を渡してやる気になれなかった。苦労すればいいのだ。アレンが本当はどんな奴か。


「…モヤシだ」


 神田は一言で締めくくった。期待満面のラビは少し拍子抜けした顔をする。
「何さ、それ」
「それだけだ、あいつは。それ以上でもそれ以外でもない」
「それって見た目じゃん。俺はアレンがどんな性格か知りたいんだけど」
「俺がどうこう言ったって仕方がないだろう。お前はいつでも自分勝手に判断するからな。どうせ探索部隊の連中に色々聞いてるんじゃないのか?」
「ハハァ。俺、ユウの意見て独創的で好きなんだけどさぁ」
 ラビは笑って頭を掻いた。
「まぁ、みんなの意見は大方評判いいんだよね、アレンて。優しくて親切で明るくて。超気難しいユウと正反対の、いい人が入ってくれて本当によかったって。
 だけど、通り一辺倒の模範解答でさ。やっぱここは直に組んだユウの意見を尊重しよっと思って」
 神田はうんざりした。
「だから、モヤシだと言っただろう。あいつの事なんか思い出したくもない。イライラするし、うっとおしい」
「ふ〜ん、やっぱそうなんさぁ」
 ラビはトンと岩の上に立った。



「ユウは人から好きだって言われるの馴れてないからさぁ」


「なっ……!」
 神田は思わずつんのめった。
「好きって言われて、付きまとわれて、アレンをどうしたらいいか解らないんだよねぇ。ガキみたいに邪険にするしか出来なくて、オロオロおたおた困ってんだろ、ユウ」
「なっ、何でお前がそんな事まで……」
ラビは真っ赤に染まった神田の顔をマジマジ見つめた。
「あれ、ビンゴ? カマかけただけなのに」
「え、手前っ…っ!」
「俺が知ってるのはアレンがお前の事気にしてるらしいって事だけ。普通、ユウと組んだ奴は任務終了後、ユウを避けるからね。だから、珍しいなぁって。
 ふ〜ん、やっぱそうなんだぁ。俺という者がありながら。ユウの浮気もん。
 ねぇ、ユウ。どんななん? ユウはホントはどう思ってんの? 俺とアレン、どっちが好き? 色々教えてくれん?」
「バッ、バカッ! 大体、俺がいつお前と…!」
 その瞬間、ラビの鎚がクルリと回転した。巨大な砲丸を一撃で弾き飛ばす。ラビは目をキラリとさせて、神田を見返す。


「戦場で大声は禁物だよ、ユウ。ね、お互いの背中に目があるといいっしょ? うん、動転しちゃったユウって、かわいいけどさぁ」
「この…! これが終わったら、ぶっ殺す!」
「はーい。楽しみにしてまーす」
 ラビは笑う。
 神田は目をつり上げて、ラビを睨み付けると、六幻を握り直した。

エンド

やっぱりラビ神好きだなぁ。かわいい。

神田お題へ

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