「そん時の俺は彼の言葉がよく解らなかったさ」
 ラビは最後のページを捲った。


「けど、俺が最初の名前に『アレン』て選んだのは、それを聞いたからかも知れない。好きな響きだったから、他でも何回か使ったさ。だから、つい反応しちまう。
 まだ俺の中に『アレン』だった時が残ってるからだと思う」

「その人は? 何処行ったんですか? 何処かで『本当のアレン』に会えたのかな?」
「さぁね。穴蔵に長逗留する奴はいなかったさ。でも、多分会えたと思う。
 俺がアレンに出会えたようにね。俺だけのアレンに」
 ラビはベッドに腰を下ろすと、そっとアレンを抱きしめた。


「出会ったら、解るってそういう事だったかなって今なら解るさ。アレンは独りしかいねぇもん」

 ラビはアレンのうなじに顔を埋めた。アレンの匂いを胸一杯吸い込む。
 あの穴蔵は色んな住人が行き過ぎる場所だった。ブックマンと聞いても、誰も驚かない場所だった。ノアの一族と擦れ違っても誰も見咎めない闇の底だった。

「あのね…聞いていいですか?」
 アレンはくすぐったそうにラビの吐息を感じながら呟いた。
「ラビって、もしかして『ユウ』って名乗った事ありますか?」
「んにゃ、ない。それだけはない」
 ラビは笑った。アレンも笑う。

「どうして?」
「いや、別に何となく。今となっては選ばなくてよかったさーって」
「僕もよかった。ラビが『ユウ』だったら、何か嫉妬しちゃうかも知れません」
「なして」
「何ででも。…じゃ、ラビはいつかまた『アレン』て名乗る事もあるんでしょうか?」
「ないさ。アレンはアレンだもん。もう俺はアレンと出逢っちまった。俺が『アレン』になる事はもうない」
「よかった。僕ね、名前、呼ばれるの大好きなんです。凄いあたたかい気持ちになるから。僕が僕でいるって、僕でいていいって気持ちになるから。
 そしてね」

 アレンは微笑んだ。
「ラビの声で呼ばれるのが一番好きなんです。アレンて。ラビの声の響きが好きなんです。アレン、大好きって囁かれるのが好きなんです」
「うん」
「ラビは…いつか『ラビ』じゃなくなっちゃうんですね」
「…多分ね」

「でも、僕にとってラビはずっとラビのまんまです。僕は『ラビ』しか知りませんし、知らないまんまで終わるんだろうな。
 だから、ずっと呼んでていいですか? ラビって。

 僕が思いの丈を込めて呼んだなら、あなたの物語に記録してもらえるんでしょ?
 僕はあなたを忘れないから、ラビをブックマンでなくラビとして見続けるから、ラビは僕の前でラビでいて下さい。ラビって、呼ばせて下さい。最後の瞬間まで」

 ラビはギュッとアレンを抱きしめた。ブックマンになるのが、怖ろしいと思った事もあった。淋しいと思う事もあった。

 でも、いい。
 もう、いい。

 アレンが自分をラビとして、ずっと心に残してくれるのなら、ラビでなくブックマンとして存在する事になっても、もう怖くない。
 人間としての自分がそこにいる。

『もし、誰かが思いの丈を込めて、君の名前を呼ぶならば』
 自分が存在した証だけは残るのだ。
 だから

「なぁ、アレン。名前、呼んで。俺の名前、呼んで」
「ラビ」
「もっと、呼んで。もっともっと。俺もアレンの声好き。大好き。だから、呼んで。俺を忘れないで」
「ラビ」
「もっと」
「ラービ」
「大好きさ、アレン」
「ラーーービ」



エンド


久しぶりのラビアレ。名前に拘ってみました。
その『アレン』が誰かなんて、俺に聞かないで下さい(笑)
妄想極まれり/////。

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