「アニマルセラピー」 11

 

 阿幾は押し黙った。
 村を壊さないと前に進めない。その衝動だけが自分の中にある残り火だ。
 だが、それが消えた後には何もない。

「目的などもう見失ってる。
 ただ、俺の中に溜め込まれた憎悪や怒りや悲しみ、その他のガラクタを燃やさねぇと俺は綺麗になれない…そう思うんだ」 

 阿幾は微笑むと犬から腕を放して立ち上がった。

「俺は仕方ない人間だな…」

 その余りのやるせない背中が痛い程悲しい。

(何て淋しさだ…)

 部屋の中は明るいのに、阿幾だけ闇の中に立ち尽くしているようだ。
 何でこんなに破滅しか望んでないのか。
 村は何故こんな生き物を作り上げてしまったのか。
 そして、自分もその村人の一人なのだ。
 それがどうしようもなく心に絡みつき、やり切れない。
 思わず匂司朗はその背を強く抱き締めていた。

「同情はいらねぇよ…」
「いや」
「じゃあ、放せよ。おかしいよ、あんた」
「離したくねぇんだよ」
「勘違いも程々に…」

 その瞬間、スルッと胸と腰の中心を容赦なくまさぐられた。
 手馴れた指使いに阿幾は声を詰まらせる。
 抗う間もなく服が乱れた。
 キュッと赤い突起を摘まれ、ジーンズの中に手が忍び込んでくる。

「あ…っ!」

 脳髄まで走る快感に足が砕けて力が入らない。

「おい…っ」

 どうにか抵抗しようと匂司朗の手を掴んだが止められない。
 優しく、強く扱かれる。
 先走りの水が溢れて、匂司朗の手を汚した。
 淫らな水音が耳を打つ。

「あっ…はぅ…やめろっ…て」

 立っていられない。
 手を突こうにも壁が遠いので、匂司朗の首に腕を絡める。
 自然と上向いた顔に匂司朗は屈んだ。
 唇を奪われる。夢中で舌を絡め合った。

「ふ…う…くぅ」

 荒れた手がチリリと肌を擦る。
 目が眩む。あっという間に阿幾は達していた。

「…あ」

 匂司朗は茫然として汚れた右手を見下ろした。
 我に返ったらしい。

「すっ、すまん! 大丈夫か?」
「いきなり襲っておいて大丈夫もないだろ? まぁ気持ちよかったけどよ」
「悪い。俺、どうかしてたな」
「え?…ハハッ、あんた、ホントいい奴だな」

 阿幾は笑い出した。
 女たらしで名を馳せているが、純情な所もあるらしい。
 箍が外れた自分に驚いたのだろう。
 匂司朗はあの村出身にしては意外に常識人だ。
 周囲がおかしな奴ばかりなので、止めに入る制御役をかってる内に自然と身についたらしい。

(損な性分だな)

 阿幾は苦笑した。世話好きでお節介で父親気質なのだ。
 お館になれば、理性の働くいい当主になるだろう。

(その姿を見れねぇのは残念だな)

 その想いを隠して、匂司朗の前で足を広げる。
 まだ紅く熟れたそこは白い果汁を零して艶めかしい。

「大抵の奴は突っ込んで終ってから慌てるぜ?
 意見を言いたいなら、堕ちてこいよ、俺の所まで」

 匂司朗は溜息をつくと、阿幾の前に跪いた。

「自分を余り切り売りするな、阿幾」


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