「空気力学と少年の詩」 10
天照素を倒した時の事を覚えてないと匡平は言った。自分が倒したという自覚すらないと。
だが、阿幾は忘れていない。
爆発に気づいて紫音が案山子と舞い降りてきた時、振り返った匡平は全く別人の顔をしていた。
『まひるを連れていけ。そして、大人達に知らせて欲しい』と。
まひるは匡平といたいと泣き叫んで暴れたが、周囲は凄まじい熱気だし、火災も延焼しつつある。
極めて正論だった。
紫音は説明を欲しそうな顔をしていたが、匡平の妙な気迫に圧されたのだろう。
余計な質問もせず、飛び去っていった。
その後、二人きりになった後、阿幾は匡平に犯された。
二人共、まだ十二歳だった。毛もロクに生えてない子供だった。
初心な匡平は性知識に疎かった。
女の子に興味はあっても、スカートめくりはしないオクテだったのだ。
その匡平がまるで大人のように阿幾を犯した。
それまでは川遊びなどでじゃれ合い以上に近い事があっただけだ。
相手を性の対象として見るなど考えた事すらなかった。
だが、あの日を境に全てが変わってしまった。
阿幾はあの時、全てに絶望し、全員死ぬものと諦めてしまった。
それを覆したのが匡平だ。
炎の中に一人立つあの後姿は、阿幾を畏怖の心で満たした。
永遠に越えられず、負けて屈する事すら心地よく感じる程、圧倒的な力の差に。
その相手に望まれて抵抗など出来る筈がなかった。むしろ、喜んで体を開いたのだ。
匡平は最初から最後まで無言だったが、その目だけで彼が望んでいる事が解った。
荒々しく組み敷かれた時も、全身を貪られ、貫かれ、匡平を初めて受け入れた時も全く嫌ではなかった。
むしろ幸せだった。
匡平が自分の中で荒れ狂う血を阿幾の体で鎮めようとしているのが嬉しかった。
紫音でなく、自分を選んでくれた事も。
幸福で幸福で、初めてなのに何度も達し、我を忘れた。
あんなに誰かと一つになったのは後にも先にもない。
あの時の匡平はまるで龍神のように激しくて、大きく感じられた。
大人とはまた違う不思議な色の瞳だった。
触れられるだけで蕩けて、受け容れる事で満ち足りた。
揺さぶられながら、まるで大地に抱かれてるようだと思った。
その時、匡平と自分がこの地の本当の隻なのだと思った。
あの時の匡平には恐らく土地神が憑いていたのだ。
土地を荒らす禍つ神を退ける為、神の抜け殻に神が降りたのだ。
匡平が最強の隻だからこそ、神を呼び出し、その器に選ばれたのだろう。
隻の役割は本来、土地の神を崇め、鎮める事だ。
その為に森と交信する力を持っている。
日本の土地神は本来猛々しく、優しくはない。
慈悲深いが、無礼を働けば人に災いをなすものだ。
だから、護ってくれた神に対し、体を捧げて荒ぶった血を鎮めるのは至極当然の事だった。
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