「秘密」


 アレンが好きだ。
 でも、アレンはユウが好き。
 ユウもアレンの事が好き。


 んな事は解っている。だから、諦めたい。思い切りたい。
 でないと手を出してしまいそうだ。
 ユウが側にいない事につけ込みそうだ。



 でも、そんなのはフェアじゃない。

『バレンタインまでにアレンをどっちが落とすか勝負しよう』

 そんな事をユウに言ったけど、でも、こんなに二人が離ればなれになっていて、淋しいアレンに言い寄るのは簡単だって解っていても、そうはしたくない。

 紳士同盟ってんじゃない。
 こんなアレンを抱き締めても、アレンが俺を抱き返してくれたとしても、流されただけかも知れないだろ?
 そりゃ、離れている恋人より、近くにいる人を好きになっていくのが人間てものだし、それを責める事は誰にも出来ない。
 それでも、アレンには本当に俺を好きになってほしいんだ。
 流されたんじゃイヤなんだ。
 心から俺を選んで欲しいんだ。

 わがままかな。
 贅沢かな。
 でも、そうでなきゃイヤな位、マジで俺はアレンが好きみたいだ。


  だから、諦めたい。
 忘れてしまいたい。
 こんな贅沢な理由なんて言える内に。
 でないとさ、でないと俺さ。


「なぁ、アレン」
 だから、俺はアレンに尋ねた。


「もしさ、俺とユウが崖から転落してさ。どっちかしか助けられないとしたら、どっちを助ける?」


  やな質問だ。
 卑怯な質問だ。
 でも、俺はそれに縋らないといられない程、アレンが好きなんだ。
 アレンに選んでほしいんだ。
 ユウをさ。


 だったら、思い切れる。
 だったら、忘れられる。
 その答に縋って、俺はアレンを思い切れる。


「二人を助けて、僕が崖から落ちますよ」


 だけど、アレンは躊躇いもなく、こう言った。
 打てば返すようにこう答えた。



 俺はちょっと茫然自失になった。
 アレンはこうだ。こんな奴なんだ。
 こうだから、俺はアレンが好きなんだ。アレンを守りたいと思うんだ。
 最初から答なんか解っていたのに、俺は何を期待していたのか。


「それじゃ、ダメじゃん。助けた奴が落ちてどーすんだよ」
 俺は動揺を顔に出さないよう、必死で笑った。
「そうですね。落ちたら痛いですもんね。僕も出来れば落ちないようにします」
「当たり前さ」
「えへへ」
 俺はアレンの頭をこづいて、自分の軽率さをちょっと呪った。バカだと思った。


 落ちたのは俺だ。自分で落ちたのは俺だ。
 こんな質問して、逃げようなんて。
 俺は本気で恋に落ちた。


 だから、これはまだ俺だけの秘密。

エンド

ラビって、器用だけど、まだまだ若いって所が本当に好きです。

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