石鹸の匂いがする。


 神田は座卓に肘をついたまま思った。
 アレンが喋っている。教団の宴会の事。ラビの事。大浴場での事。神田には余り興味のない事だから相づちも打たない。聞き流す。
 たたアレンの唇が動くのを見ている。白い歯が、桃色の舌が動くのを見てる。首筋から胸元を見てる。ランプの灯で次々に色が変わる瞳を綺麗だなと思う。袖口から覗く白い腕を見てる。指先を見る。また、うなじを見つめる。


「…もう、神田。聞いてるんですか?」
 アレンはじれったそうに言った。
「聞いてる」
 まぁ、大体は。

「喋りすぎてます、僕?」
「ちょっとな」
「ひどいなぁ。神田も一緒だったら…」
 そこで初めてアレンは口ごもった。真正面から見つめている神田の視線に気付いたからだ。
「……何ですか?」
「……お前、見てる」
「……ああ…その、あんまり」
 アレンは照れたように俯いた。首筋がほんのり桜色に染まるのを美しいと思う。アレンは自分の容姿にコンプレックスを持っている。綺麗な顔をしている癖に、余りに異質な腕や瞳を持っているが故に、人々から迫害されたからだ。じっと見つめられる事にどうしても馴れないらしい。


「風呂、ラビと入ったんだな」
「ええ、話したでしょう? それで…」
「もう二度と誰とも入るな。俺以外と」
 アレンは真顔になり、やがて困ったように笑った。


「………僕を離さないでくれますか?」
「お前が望むんならな」
 アレンは膝立ちになった。身を乗り出す。


「…神田が望んで下さい。いて欲しいって言って下さい。神田は僕の事、本当はどう思ってるんですか?」


 神田は視線を外さなかった。たじろいだら、負ける。

「いろ。ここにいろ、モヤシ。俺の側から離れるな」

 言うなり、神田は不意に赤くなってイライラと頭を掻いた。
「……クソッ、言わせるなよ、俺に」
「ごめんなさい」
 アレンは少し涙ぐんで神田を見つめる。
「バカ、泣くな」
「すいません………でも、聞きたかったんです。神田の口から」
「バカ」
 神田はアレンを引き寄せると、その口を塞ぐ。夢中で舌を絡め合った。柔らかい唇。舌の甘さ。


「………んんっ」
「……あ……」


 また石鹸の匂いがする。


 ラビと入った時の香り。


 心がざわついた。あれから数時間、アレンは別の人間とも入ったんだろうか。だから、髪が濡れてるんだろうか。ラビ以外の人間がアレンを見たのだろうか。


「風呂」
 神田はアレンをもぎ放した。
「……え?」
「離れた罰に俺の背中を流せ、モヤシ」  
アレンは思わず吹き出すと、にっこり笑ってハイと言った。



めでたしめでたし(一応)

 

9から裏です。ごめんなさい(^^;
お子様はここでお別れだよv 読んで下さってありがとうございましたv

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