俺は人気のない談話室のテーブルに枝つきキウイを籠に山盛りにして置いてみた。甘酸っぱいキウイを囓りながら、俺は部屋の外でじっと待つ。

 ほどなくして、獲物はやってきた。
 ユウは真っ直ぐテーブルに向かい、キウイを手にとってクンクン嗅いだ。魅入られたようにそれを見つめていたが、やがてソファに身体を埋め、キウイを無心に齧りだした。ひどく嬉しそうだ。
 一個。二個。ソバと天ぷらしか食わない筈のユウがガツガツキウイを食べている。その姿は何かに取り憑かれたようだ。目がトロンとし、頬が上気している。小首を傾げ、長い黒髪を重たそうに揺らし、長い指で掻き上げている様は女より遙かに色っぽい。俺はその美しさを固唾を飲んで見守った。

 頃合いを見計らって、俺はゆっくりテーブルに近づいた。いつもなら怒るとしつこいユウは、あっという間に向こうへ行ってしまうのだが、今日は物憂げに俺を見返しただけだった。

「何だ、バカウサギ。俺に近づくな、殺すぞ」
「ま、いーじゃん、いーじゃん」
 俺はそそくさとユウの隣に座った。口は悪いが、毒気はないから何を言われても腹は立たない。
「これ、うめぇな。何だ?」
「キウイ。ユウは食べた事なかったっけ?」
「…キウイ?」

 ユウは口の中で呟き、やはり無心にキウイを食んでいる。目元が艶を帯び、物憂げに瞬いていた。唇と指が甘く濡れている。少し乱れた髪を指で整えてやると、微かに目を細めたが、差程嫌がらなかった。そのまま、頬からうなじに指先を滑らせると気持ちよさそうにしている。身体が少し気だるげに揺れていた。
 できるだけ、ゆっくりゆっくりユウの肩を抱き寄せる。思いの外、ユウはなすがままに身を委ねてきた。熱っぽいユウの体温と体重が心地よい。

(うわーっ、マジー?!)

 思わず俺は快哉を上げそうになった。ユウはもう手の掛かる恋人で滅多にこんな素直じゃないのだ。
 ベッドに連れ込むまでべらぼうに時間がかかる。それも一興ではあるけれど、こんな楽々に言いなりになってくれるのは初めてだ。キョーレツにクる。ハァハァする。もうたまらん。
 けど、俺はググッと我慢する。鉄の意志を持ってないと、ユウの恋人は務まらない。裸にして、愛撫しても、ご機嫌を損ねると、いつ強烈な猫キックが飛んでくるか解らないからね。

「何か変だ…これ食べると頭がフラフラしてよ…。でも、やめらんねぇ。
 こんな事じゃいけねぇのに…俺はいつだって研ぎ澄ましてねぇと…」
「いいじゃん。今日は俺がいるんだし」
「そうだけどよ…」

 ユウはだるそうに頭を振った。キウイの甘い匂いがそのたびに散る。ユウは自分から熱っぽい頭と身体を俺に幾度も擦り寄せた。まるでその香りに溺れきってしまいたいみたいに。猫が自分の匂いを所有者に染み付けたいみたいに。
 俺はなだめるように、くねるユウの身体を撫でてやった。頭。うなじ。肩。背中。背筋と脇腹をついと撫でるとユウは身体をゾクゾクッとさせた。いつもなら少し溺れる自分を嫌がるのに、今日は本能に身を委ねてる。とろけるような目と吐息が俺の鼻先をくすぐっている。ドキドキする。
 俺は果汁がしたたるユウの指を取って、しゃぶってやった。気持ちよさそうにユウが目を細める。その顔が見たくて、掌ももっと舐めてやる。紅い舌でチロチロと擦る。甘い、甘い。ユウの指って何て甘い。

「ごめんさ、ユウ…帰ってこれんで。これでも必死だったんさ」
「もういい…忘れた」

 ユウはすっかり溶けて流れて、俺の腕の中にいる。完全に酔っぱらっている。俺の愛しい黒猫。俺は存分にそのしなやかな身体を抱きしめる。我に返ったら、滅多に触らせてくれないから、今の内に一杯撫でて、触っておく。俺はキウイを取りだして齧った。また甘い匂いが口一杯広がる。


 キウイはマタタビ科だ。
 猫にマタタビ。どんな猫もキウイの芳香にはかなわない。酔っぱらって、虜になって、立っていられない。
 元々、ユウは猫型気質だ。猫の敏捷性や闘争本能はエクソシストのスペックを引き上げる。いつもはユウがキウイなんかでレロレロになる事はないんだろうが、コムイの人体実験で
(細工は流々)
って訳だ。


「お前…いい匂い…」
 ユウが不意に俺に手を伸ばして、唇を求めてきた。本当は俺のキウイの果汁と果 肉が欲しいだけかも知れないけど、もう、んな事どうだっていい。俺達は抱き合って、夢中で舌を絡める。ここが談話室なんて事、頭から吹っ飛んでる。ユウがキウイに酔ってるなら、俺はユウに酔わされてる。クラクラする。ドクンドクンしてる。全身が心臓も脳もアソコもドクンドクンしてる。気が変になりそう。

 みずみずしい緑と黒のエクスタシー。
 甘酸っぱい夢に溶けていく。


「あー、ラビ。…ここではここまでだから。公共の場だからね、一応」
 コムイがソファの後ろからコホンと咳払いした。俺はユウを抱いたまま、半分夢見心地でぼんやりと顔を上げる。
「これが僕からのラビへのバースディプレゼント。遅ればせながら、おめでと。……どう?」
「…………サイコー」

 俺はニンマリ笑った。コムイが本実験したい相手が、あの赤毛の元帥だろうという事実は、この際どうでもいい。あのクロス元帥がキウイなんかでメロメロになる図ってのはちょい見てみたい気もするけどね。

「んで、どーする? いつまでもここ、君の為だけに封鎖しとけないから。
 お召し上がり? それとも、お持ち帰り?」
「お持ち帰りv」
 俺はユウを抱き上げて、ニッコリと笑った。

エンド

盆前の残業の嵐と親戚の帰郷と葬式続きのトリプルパンチで大幅に遅れたのを逆手に取ってみたラビバースデー遅れてゴメンさSS。

すいません、ぱとさん。マジ遅れてすいません。
しかし、参加したかったのじゃ(^_^;)
一応、寸止めにしました(笑)

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