もしも、俺が

 

「おやすみ」

 俺がそう言うと、アルはいつも部屋を出ていく。俺の眠りを乱さぬ 為と、夜の日課(体術の稽古)をしに行く為だ。
 俺はその後、起き上がって、冷たい窓ガラスにこめかみを当て、アルが宿から遠ざかっていくのを黙って見守る。
 夜、眠る事のできない弟。何も感じる事の出来ない弟。
 一日も早く元の身体に戻してやりたい。

 

 だけど、本当に賢者の石でアルは元に戻るんだろうか。
 今、アルの魂は鎧に宿っている。もし、身体を錬成できても、現在の魂をそのまま新しい身体にそっくり傷もつけずに移す事は可能なんだろうか。
 何もかも最初から錬成し直すという事は、全く新しい肉体を創り出すという事だ。生物学的に肉体だけの『からっぽの器』などあり得ない。新しい身体には新しい命が宿るだろう。
  一つの身体に二つの魂。同一人物でもそれを統合する事など出来ない。
 新しい命は白紙。まっさらな魂だ。
 錬金術の正統な錬成に挑むなら、本当にアルの無事を祈るなら、もう危険は犯せない。 完全な身体の復活の望むなら、自然界の流れに沿わねばならない。
 だから、アルは俺の手元には残らないかも知れない。
 一度流れに溶けて、何処か遠い国の誰かの子供となって、新しく生まれ直す事になるんだろう。


 その時、 俺はどうするんだろう。きっと俺は探しに行く。新しく生まれたアルを。
 この大陸中駆けずり回って、幸せになっているか、無事で生まれたのか確認せずにおれない。
 俺は一目で解るだろう。どんなに幼くても、姿が変わっても、それがアルならば俺は絶対に間違えない。
 でも、もうアルは俺の弟じゃない。
 誰かの子供、誰かの兄、誰かの弟。俺と血のつながりもなく、俺の事なんかかけらも覚えちゃいまい。
 俺はその時、どうすればいいんだろう。
 アルの幸せを願うなら、そのままそっとしておくのが一番だ。誰よりも何よりのアルの幸せだけを願っている。
 例え、名乗れなくても、抱きしめられなくてもいい。俺の名を呼んでくれなくても、俺の脇を気づかずに素通 りしても、笑っていてくれればそれでいい。
 俺はずっと側でアルの幸せを見守り続けるだろう。
 罪を背負い続けるのは俺だけでいいんだ。

 

 だけど、だけど、俺はそれでいいのか?
 それが本当の望みなのか?
 アルを取り戻す事さえかなえば、そんな日々に耐えられるのか?
 見つかるまで当てもなく大陸を巡り、見つかっても、触れる事すら出来ない日々に。
 今度はたった一人きりで。
 もしも、俺がどうしても耐えきれなくなった時、俺はどうするんだろう。
 アルの幸せを壊してまで、俺はアルを欲しいと願うだろうか。
 全てを告白して、アルをこの手で抱きしめようとするんだろうか。

 

 それとも、危険を冒しても、リスクを背負ってでも、現在のアルが欲しいのか。
 何処までも流れに逆らってでも。
 アルを再び苦しめる事になるのを知りながら。

 

 答えはない。
 答えなど出せない。

 

 俺は冷たい窓ガラスにこめかみを当て、アルが遠ざかっていくのを見守る。
 闇の中で見守り続ける。

エンド

 

 

てな事を書きましたが、うちのエドの事ですから、真理を張り倒し、足でグリグリした挙げ句、唾でも引っかけてから、アルの身体をかっぱらって、ちゃんと完璧なアルを創ると思います。お互い悩んでも、二人でとことん話し合い、二人で危険に挑んでいく。
だって、アルもエドの身体を取り戻そうとするから、エド側だけの錬成はしないと思う。
だましたりしたら、アルは一生エドを許さないだろうから。

でも、やっぱり色んな可能性考え出すと、一人だと多少はナーバスになると思います。
一度取り返しのつかない失敗をしてるからね。

 

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