「なんとかしなきゃ」

 

「お前を絶対、元の身体に戻してやる」


 いつもの兄さんの口癖だ。嬉しいし、僕も望んでる事だけど、どうも気になる。
 何だか、その言葉は願いでも決意でもなくて、強迫観念みたいになっていない?
 宗教みたいになってない?
 僕は御神体じゃないよ。僕は十字架にかけられたキリストでも、仏像でも何でもないよ。
 兄さんのただの弟。アルフォンス=エルリックだよ。
 余り、願いすぎて、祈りすぎて、兄さんの最初の気持ちが変質しちゃったのかな。旅が長くて、賢者の石が見つけられなくて、製法が解ったと思えば、あんなので、軍部や変な連中や事情が込み入ってきて、一筋縄でいかなくなったからかな。

『アルを元に戻したら、俺はアルを連れて姿を消す。後はお前達で勝手にしろ』
 
 あれは兄さんの本音だよね。
 石が出来たら、それこそ奪い合いになるし、人体錬成を計った僕達を、軍部の内部を知りすぎてる僕達を放ってもらえないから、そんな事言ったんだよね。
 でもさ、僕の願いはどうなるのさ。
『兄さんと一緒に元の身体に戻る』
 という僕の願いはすっぱりとどこかに置き忘れられてる。切り捨てられてる。
 兄さんも生身に戻りたいと思ってはいるけど、機械鎧が便利だとは感じてるし、まだ何処かで罪を背負い続けなきゃとも思ってる。
 僕の気持ちなんかお構いなしに。
 僕さえ直ればいいの? 僕が直ったらそれでいいの?  
 違うでしょ?
 一緒でなきゃ、一緒に幸せにならなきゃ意味ないんだよ、僕達の旅は。
 何とかしなくちゃ。
 兄さんがこれ以上、凝り固まっちゃう前に。

「ねえ、兄さん。いつも僕を元に戻すって言ってくれるけどさ。もちろん、その時、僕も兄さんを元に戻していいんだよね」
 兄さんはちょっと躊躇った。
「あ、ああ。そりゃ、そうだな」
「何で口ごもるのさ」
「え、だって、だってさ。もし、せっかく戻ったお前の身体が欠けたりしたら、そしたら俺は」
「そうならない為の賢者の石でしょ?」
「だけどよ、増幅器ったって、等価交換の原則は生きてるだろ? 何か少しでも犠牲にしないといけないんだ。
 お前の小指でも欠けたらどうするんだよ!」
「そんな事、僕は恐れてないよ」
「お前がよくても俺がイヤなんだよ!」
「僕だって、僕を戻すのに兄さんの何処かがまた無くなったらイヤだよ」
「お、俺はうまくやるよ。お前は自分の事だけ考えてればいいんだ」
「自分の事を考えてるから、言ってるんだよ。兄さんと一緒じゃなきゃ、僕は元に戻らないから」
「アル、そんなの駄目だ! お前は絶対、元に戻らなきゃ!」


 あ〜あ、堂々巡りだね。
 僕は溜息をついた。それじゃさ。
「もちろん戻るよ。絶対。兄さんと一緒にね。
 じゃさ、目的を変えない? いつか一緒に絶対、真理の奴を殴りにいく」
「え?」
 兄さんは一瞬、あっけに取られた。
 だが、すぐ目が光る。僕達が本気で恨む(自業自得にしたって)のは真理だし、僕も嗤いながらボクの身体を奪ったあいつの顔をぶん殴ってやりたいもの。
 兄さんは笑った。全くケンカバカなんだから。
「そうだな。ボコらないと、絶対気が済まねえな、あいつだけは!」
「僕だってそうだよ、だから、一緒に殴りに行こうよ」
「ああ、それなら絶対だ!」
 兄さんはもうそれが楽しみで目をギラギラさせている。
 

 やれやれ。
 そんな訳で僕らの当面の旅の目標は 「一緒に、真理を殴りに行く事」である。

エンド

 

一発書きにしては割と気に入ったオチだったのに、アニメには困ったもんだ(;;)

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