「眠り姫」


「あ〜〜〜〜〜〜」


 兄さんは僕の腕の中でしみじみと呟いた。
「やっぱ、ここが落ち着くわ」
「って、もうせっかくお風呂、入ったばっかりなのに冷えちゃうよ?」
 僕は苦笑いした。ほんの数日間、離れていただけなのにお互い色んな事があった。ロス少尉の密出国。ホムンクルスとの戦い。父さんと兄さんの再会。そして、人体錬成の真実。
 それには痛みがあった。苦しみがあった。特に僕達の原罪を暴いた兄さんの心は、それこそ身が千切れる程の激痛だったろう。
 だけど、僕達はそこでやっと真実の奥を見つけた。僕が元に戻れるという確信も。
 僕達は前に進む。進める。それは今以上の苦しさを伴うものだろうとしても、それだけ解った事がただ嬉しい。僕達はやはり立ち止まる事なんか出来ないのだ。諦める事なんか出来ないのだ。達観した大人ではないから。絶望の中に光を見つけてしまえる子供だから。


 それでも、その事より少しだけ、また一緒になれた事が嬉しい。落ち着く。まだ何一つ現実が変化した訳でもないけれど、鎧の体に過ぎないのだけど、こうやってただ抱き合える事だけで何となくしっくりする。心がピッタリと重なってる気がする。
「のぼせる程、熱い湯に入ってたから却って気持ちいいんだよ」
 兄さんが笑った。昔から兄さんは熱い湯が好きな方なんだけど、機械鎧になってからは関節部が辛いに決まってる。でも、僕に体温が移りやすいから兄さんは辞めない。僕も解ってるから、その事は黙ってる。兄さんが僕を欲しい時の暗黙の了解。


(でも、隣にウィンリィがいるんだよなぁ)


 僕は困った。兄さんは抑えても、あの時の声がつい大きくなっちゃうし、このホテルの防音はやや心許ない。兄さんがお風呂に入っている間に一応、壁を錬成し直したけど、隣にウィンリィがいると解っているのは何となく気恥ずかしい。
 だけど、ちくしょう。僕らはどうしようもなくお互いが欲しいんだ。色んな事を一杯喋り合って、でも全然足らなくて、もっと話し合う必要があるんだけど、それよりまず前にお互いを一杯に満たしたいんだ。
 これも『向こうの僕』が感じてる事なのかな。だから、欲望が消えないのかな。


「なぁ、ちょっと蓋開けろよ」
 兄さんが呟いた。僕は首を傾げる。
「え、まだ無理じゃない?」
「いいだろ? もう少しお前の側に寄りたいからさ」
「血印に触らないでよ? 兄さんの髪、濡れてるんだから」
「わーってるって」
 僕は前甲の留め具を外した。兄さんは下着とタンクトップのままで、ひょいと僕の中に入り込む。前は抱き合う事からゆるやかに前戯を始めてたんだけど、最近は何となく少しづつこんな事もしてる。僕が鎧なんで性行為も変則的になっちゃうのかな?



 僕の中に兄さんを入れるって、いう行為。


 兄さんが僕を抱けないから、兄さんが焦れてやり始めた事なんだけど、それ以来兄さんは気に入ってよくやるようになった。
 兄さんは僕の中で丸くなって、僕の血印の側に頭を凭れかけたまま喋ったり、僕の内部を触れたりする。血印の側だと、僕の声が鎧の中で籠もったように響く分が減って、ダイレクトに兄さんの耳に伝わる。だから、僕がもっと側にいるように思えるんだってさ。僕も兄さんの耳元で囁いているようで、何となく近くに感じる。
 僕はこの間、手持ちぶさたで、兄さんにされっ放しで、ベッドの上で『まぐろ』だった時みたいな気がしないでもないけど、二人で囁き合ってるってのは好きだ。愛し合った後、毛布にくるまって二人で喋った時の事を思い出すんだ。
 あの頃は単純だった。ああ、あの頃は何て世界が完璧に完成されていた事か。


「ううっ、冷てぇっ」
 僕の表面が少し暖かくなったって、僕の内部まで伝わる訳じゃない。僕の中に潜り込んだ兄さんは案の定、体をブルッと抱き締めた。
「ほらぁ、毛布いる?タオル取ってこようか?」
「いらね。すぐ暖かくなるって。じっとしてろ、アル」
 兄さんは僕の血印に音を立ててキスをした。僕はビクッとなる。感じたというより、兄さんの行為に驚いたからだ。
「もう駄目だって!」
「アハハ」
 兄さんは笑ってる。兄さんの声が鎧の中で籠もる。何だか変な気分だ。兄さんがいつも聞いてる僕の声はきっとこんな感じなんだろう。兄さんが鎧で、僕が生身だったら、毎日こんな声を聞いてるんだ。立場が入れ替わっても僕らは遠い。
 それでも、兄さんが動くと僕の血印にすぐ伝わってくる。触れる指を僕は本当に間近で見てる。心臓はないけど、向こう側の僕はきっとドキドキしてるんだろう。



『僕の体は向こう側にいる』



 その確信が強くなる。昔からずっと何となく感じていた事。僕は成長してる。日々を実感してる。兄さんを通 して。兄さんが墓を暴いて、確信した事を僕は昔から『知って』いた。気づいてた。ただ、理論として組み上げられなかったんだ。科学者としては、やっぱり兄さんの方が上だと思う。
「ねぇ、兄さん」
「ん?」
「僕、本当はさ、ちょっと怒ってるんだよ? 一人で母さんの墓暴いた事」
「う………」
 兄さんは苦い顔をした。
「け、けどよ、お前だってバカ大佐につき合ってパーツ無くしたじゃねぇか! 危ねぇだろうが! だから、俺抜きで軍部に余り首を突っ込むなって!」
「ええっ……で、でも、あれは不可抗力だよ! ヒューズさんの事知りたかったし、中尉が危なかったんだよ! 兄さんこそ、何で僕に一言相談してくれないの!」
「だ、だってよ、お前にまたアレを見せるのは…」
「埋めたのは僕だよ。二度だって…平気だよ。兄さんと一緒なら」
「平気じゃねぇだろ、バカ」
「そうだけどさ! そういう所が、一人で全部かぶろうとする所がイヤなんだよ! 言ったでしょ? 兄さんが罪を背負おうとするのは仕方ないけどさ。僕を置いていかないでって。兄さんがそうしようとすればする程、僕は一人になっちゃうんだよ。僕達二人の罪なんだよ? 責任持って僕を直すというなら、僕にも約束を果 たさせて。
 僕達にはそれぞれ人生があるって兄さんは言いたいし、望んでるのかもしれないし、それが一番正しい事なのかも知れないけど、もうとっくにそんな段階は通 り越してるんだよ、僕らは。僕は兄さんと人生を歩みたいんだよ。兄さんがどうしようもなく好きで、必要なんだよ。依存だって非難されてもいいよ。僕は人間だから、そんなに強くないよ。兄さんと一緒だから強くなれるんだ。
 兄さんは違うの?」
 兄さんは僕をしばらく見つめていた。ふと拳を上げて、僕の血印の側をコンと叩く。
「違わねぇ。お前のそういうとこ、やっぱかなわねぇなぁ。謝る。偉そうな事、言いたいけど、お前がいないと俺はやっぱ駄 目だ。全然情けないくらい弱ぇんだ。
 母さんの墓を暴いて、吐いた。吐きまくったさ、俺は。胃袋が引きちぎられるんじゃないかと思った。
 でも、前にこれを埋めたのはお前だ。俺が気を失ってる間にやってくれた。お前にそれを告げられた時、何て事をやらせたんだと思いながら、お前に怒りながら、それでも俺はホッとしてたんだ。しなくて済んだって。俺はクズだ、最低だと思いながら、俺は逃げたんだ。俺は弱虫だったんだよ、アル。
 だから、オヤジにそれを指摘された時、すくんじまったんだ。否定できなくて、悔しくて、俺は自分に向き合わないとと思った。あいつに負け犬なんて思われたくなかったんだ。皮肉だよな。あいつを憎んでいるから、俺は自分の弱さと戦う気になれたなんて。
 けど、やり通してよかったと思ってる。もっと早くやるべきだったって」
 兄さんは僕の血印の側に頭を押し当てた。
「母さんの墓に最初に墓参りした時を覚えてるか?」
「うん。百合を植えたよね。母さんの好きな花。どっちにも淋しくないようにって」
「あの頃から、俺はあの真理の世界に疑問を持っていた。あれはあの世なんかじゃないって。学問と知識の世界でしかないって。だから、生命の存在感がないって事を俺は『解って』いた癖に、ずっと無意識に見落としていた。
 あそこには俺と奴と扉しかなくて、お前の存在に気づかなかった。いるかもしれない。お前の体は何処かに保管されていると思いながら、確信が持てなかった。目をそらした。賢者の石を求めればどうにかなると単純な答に逃げ込もうとした。
 そうだよ、俺は自分の原罪に向き合う勇気がなかったんだ。そうしてる『つもり』でしかなかった。俺が創り出したものを再確認するより前に、埋めてしまった事を安堵しちまうような奴だったんだ。だから、こんなに長い間お前を鎧のままにしてしまった」
「自分を責めないでよ、兄さん」
 僕は手を伸ばして、兄さんの腕を掴んだ。そっと撫でると、兄さんも指を絡めて苦笑する。
「おねしょのシーツを隠したとオヤジに言われたよ。ガキだってさ、俺は」
「ハハ。まずい事だと兄さんは、確かに誤魔化す所があるもんねぇ」
「言ってろ」
 兄さんは腐った。
「でも、父さんはどうしてそれがすぐ解ったんだろ? 父親だから、じゃないよね?」
「………ああ。きっとあいつにもおねしょのシーツが何処かにあるんだ」
 親子二代か。錬金術師は因果な稼業だ。失敗でも罪でも、実験をやらずには済ませられない人種なのだ。真理の追究と嘯きながら、その真実の底を上っ面 しか見えない只の人間でしかない癖に。



「けど、僕は安心したんだ」
「何が?」
「あれが母さんでなかった事。殺してなかった事」
 僕は俯いた。
「母さんを埋めた時、僕はずっと考えてたんだ。母さんは本当の墓と、この二つ目の墓とどちらに眠るんだろうって。その事がとても気になって、ずっとずっと心に引っかかってた。僕らは母さんを二つに引き裂いてしまったんじゃないかって。殺しただけでは飽き足りず、魂まで分けてしまったんじゃないかって。
 でも、違った。あの時、母さんと思ってたものの中にいたのは僕だった。あの中には誰もいなかった。あれは何者でもなかったから、すぐ壊れてしまったんだ。誰も入れる余裕がなかったから」
「拒絶反応か……。あの時、お前が俺に話しかけようとしたんだな。声帯も違うし、言葉にすらなってなかったから俺にも解らなかったが」
「うん……。僕もはっきりとは覚えてないんだけどね。変な感じだった。あれは母さんじゃないなら、一体何だったんだろう」
「魂が入ってない、ただの器だ。人じゃない。生体反応はあっても、中身はない。無頭児ってたまに生まれるだろう?脳のない赤ん坊。多分、そんなものだ、あれは。俺は検死官じゃないし、白骨化していたから解剖もできないけどな………全く、何が完璧な理論だ。
 ごめん。ごめんな、アル。俺は……」
「いいんだよ、兄さん。母さんは安らかに眠ってる。僕達はただ失敗したんだ。間違ってた。それだけが解って、僕は救われた気になったんだ。僕らは罪を犯したけど、母さんだけは殺してなかったって。一番怖ろしい事だけはやってないって。それでいいんだ」
「……………ありがとう、アル」
 兄さんの声は消え入りそうだった。僕の指をギュッと握りしめている。
 そうなんだ。現実は変わっていない。でも、ちょっとでも重荷が軽くなった事を僕らは喜んでいた。それがどんなに僕らを苦しめてきたか。口にも出せなかった事が、僕らの傷の深さを物語っていた。
「だから、後はお前をここから引っぱり出すだけ考えればいいんだよな」
 兄さんは僕の血印を静かに撫でた。
「うん。さっき話してた仮定だけどさ。兄さんと僕の心がリンクしてるって事」
「ああ、俺、黙ってたけどさ、お前の事、離れていても何となく感じる事があったんだ。だから、お前の顔を見るだけで何考えているかすぐ解った。
 最初は兄弟だし、俺が魂を錬成したし、人間独特の感情移入だと思ってたんだけど、それだけじゃないって思うんだ。俺達、解り合いすぎる」
「そうか。道理で不思議だったんだ。だって、僕の本体は鎧だもの。兜を見て、表情が解る訳がないと思ってたんだ。そりゃ、言葉や行動で解る事はあるけど、微妙な点までは解る訳がないもの。普通 の人間同士だって、相手の心の微妙な心理は掴めないのに兄さんは何でそこまで僕の事が解るんだろうなって」
「まだ仮定だよ、アル」
 兄さんはちょっと困ったように笑った。
「その方が説明つけやすいからさ。でも、俺じゃなくても、他の人でもお前と意志の疎通 に困るとか、感情が全く読めないで困るなんて事あるか? そんなでもないだろ?」
「うーん、意識して笑い声を立てたり、思った事は言うようにはしてるんだけど。でも、確かにそう困った覚えはないね。
 ただ、やっぱり兄さん程じゃないんだよ。僕の事が解るのは。兄弟だからって思ってはいたけど、でも、違うんだ。僕はずっと兄さんを通 して世界に触れていると思ってたよ? 遠い世界の僕は無意識に兄さんの手を通して、世界に触れてるんだって。そんな風に思っていた」
「そっか」
 兄さんは無意識に僕の指を握ったり、緩めたりしてる。親指が僕の指の甲を撫でている。それが見えるけど感じないというのはやっぱり切ない。
 僕は次第に兄さんが欲しくなっている。でも、それをまだ口にはしない。
「魂と肉体は惹かれてるって、バリーは言ったんだな、アル」
「うん。魂がざわざわするんだって。肉体が何処にいるか解るって言ってた」
「ふ〜ん」
 兄さんは僕を見つめた。
「今……解らないよな、アル?」
「………うん」
 僕は悲しげに肩をすくめた。
「もし、誰かが扉を開けたら、そしたらお前が何処にいるか解ると思うか?」
「ううん」
 僕は首を振った。
「さっきさ、兄さんは扉の向こうで僕の体が何処にあるか解らないって言ったでしょ? 気配もなかったって。僕もそうだよ。兄さんを捜したけど解らなかった。
 多分、あそこはね、それぞれの知識、それぞれの宇宙だからだと思うんだ。人体はそれだけで一つの完成された空間だよ。そして、あそこはその人の内的宇宙。だから、本人と真理以外にはいない。他人の宇宙からは僕を引っぱり出す事も見つける事もできない。
  でも、兄さんと僕がリンクしているとすれば…」
「そうだ。そこから、お前を引っぱり出せるかも知れない。………わーってるよ、俺の体はもう犠牲にしねぇって。睨むなよ、アル。
 けどな、それだけじゃ駄目だ」
「どうして?」
「お前の方からも手を伸ばさないと俺には捕まえられない。お前の体が何処にいるか正確に解るのはお前の魂だけだ。お前の協力がないと、俺は何処に手を伸ばしていいか解らないし、いつまで扉が開いているか解らない。また通 行料だけ取られたんじゃたまんねぇし」
「チャンスは一度だけだね」
 僕は考え込んだ。兄さんの両腕がなくなったら? 両足がもがれたら? そんな考えを慌てて脇に押しやる。そんな事になってはいけない。どうしても。
「ああ。だから、バリーとお前の違いを考えてみた。
 多分、お前が自分の体の位置が解らないのは、同じ世界にいない事もあるんだろうが、お前の体が眠っているからだと俺は思う。バリーは魂も肉体も目覚めていた。バリーの体は遠くから自分の魂の居場所を辿れたんだ。
 お前も向こうの体が目覚めれば、お前の魂に気づくと思う。無意識にお前を呼べると思う。お前がずっと目覚めたままの、眠れない体でいるというのも関係しているかも知れない。お前が眠れば、向こうが起きるって事はあるりえるかな?
 お前が一度眠ったというより、気を失ったのはグリードにさらわれて地下道で見つけた時だけだ。その時は俺はお前が起きなかったらって、気が違うかと思ったけどな。お前は目覚めた。そして、同時に記憶を甦らせていた。
 お前は眠った事で向こうを見た。いや。向こうにいたんだ。魂と肉体が一緒に。だから、向こうの体に蓄積していた記憶を取り戻した」



 僕は思わず息を飲んだ。そうなら、僕は扉さえ開けば、こちらに戻れる可能性があるという事だ。目覚めてさえいれば。 ただ、そんな自由が向こうの僕に許されているかどうかだが。
 だから、一人では戻ってこれない。どうしても兄さんに道を開き、手を伸ばしてもらう必要がある。
 でも。


 「でも、どうやって起こすの?
 向こうの僕がちゃんと理解して行動できないと、兄さんが手を伸ばしても気がつかない可能性の方が高いよ? 僕は確かに記憶が甦ったけど、それだけだって事かもしれないし」
「ああ、そこなんだよ。俺が行き詰まってるのは」
 兄さんは大きく背伸びした。丸くなっているのに体が辛くなってきたせいだろう。兄さんは僕の中から這い出す間際、少し名残惜しそうに僕の血印を見つめた。
「けど、お前はそこに眠ってる。解ってるのにな、俺はお前を起こす事が出来ないで、茨の塔を睨んでるしか出来ない王子みたいだ」
 僕は笑った。
「でも、いつか呪いは解けるんでしょ? 物語っていうのは必ずハッピーエンドで終わるんだよ、僕の王子様」
 実はそうでもない事を僕達は知っていたが、僕はそう祈るように言葉にした。眠り姫はこの血印に囚われて眠っている。王子のキスを待っている。錬金術という科学のキスを。科学の剣を握って、茨の闇を払う僕の兄の到来を。
 そう、呪いを砕くのはいつだって、ただの人なのだ。人間なのだ。
 真理は知識を開ける『鍵』を用意している。ただ鍵は何万とあり、それがよい鍵とは限らない。人間が正しい鍵を見つけない限り、間違った残酷な答が用意されている。事実に即した汚染や破壊を。よかれと思ってやった事に対する、怖ろしい結果 を突きつける。正しい答だけが科学の進歩を促すのだ。
 真理は人間に悪意も憎悪を持ってはいない。ただ間違ったから僕らを嗤ったのだ。バカだと言ったのだ。誤った鍵を正しいと思い込んでいたから。



「当ったり前だろ、アル。あの澄ました野郎をぶん殴って、大団円で終わらせてやるさ」


 ニヤリと笑う兄さんの顔は王子様とは言いにくい。どう見ても悪の顔だ。
 この兄が弟の体を取り戻す時、笑顔で真理にありがとうと手を振りながら別れを告げるなんて図は浮かばない。さんざんボコり倒し、足で踏みにじってから、ペッと唾をかけ、真理の扉を爆破した挙げ句、笑いながら去っていくだろう。
 僕は溜息をついた。



「やっぱり基本は愛と暴力、かな?」


「何だよ?」
 兄さんは両手を伸ばして、僕に抱きついてきた。僕は苦笑しながら、兄さんをベッドに沈める。
「僕らの行動の基準が、さ」



「それが人間て、奴だろ」



 兄さんは笑った。軍の狗。根っから国家錬金術師の顔で。

エンド

アルエドお題「花束作って」の続き、みたいなもの。
原作と設定がリンク出来て嬉しかったなぁv

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