「ローズクロス」

 

「はぁ〜い、みんな。ちょっと聞いて!」

 

 食堂は黒の教団で最も人が集まる場所である。そこでコムイが科学班や探索部隊の面 々に向かって、急に大声を上げた。みんなは何事かと思い、食事や会話をやめて顔を上げる。
 コムイの横には、一人の少年が立っていた。美しい長い黒髪と切れ長の目を持つ端正な顔をしている。銀のローズクロスが映える団服を纏い、刀を差しているから、多分エクソシストなのだろう。この教団では珍しい東洋系の顔だった。コムイやリナリーのように中国人なのかも知れない。
 惜しむらくは綺麗な顔をしていながら、少年の顔は決して友好的ではなかった。冷たい瞳に愛想一つない口元。血の気の多い探索部隊の中には、それだけで既に反感を浮かべるものもいた。
「もう知ってる人も中にはいると思うけど、改めて紹介するよ。今日から入団した新人のエクソシスト。日本人で名前は神田ユウ君。みんな、仲良くしてやってね!
 さぁ、神田君、みんなに挨拶して」
 何で俺がという顔をコムイ室長に向けると、神田は敵意に満ちた目で全員を見つめた。冷たく言い放つ。


「神田だ。
 …が、最初に言っとく。俺はお前達と馴れ合う気持ちは一切ない。俺に関わるな」


 部屋中がシーンと静まり返った。

 

(うっわぁ………)

 

 殆ど全員引くか、拳を固めるのに気づいたコムイは慌てた。本部はホームとも呼ばれるように、協調性を旨とする。個性的な性格は許されるが、自分勝手は和を乱すのだ。特に命をやりとりする現場でこんな態度では、死傷者が増えかねない。
 コムイは苦笑いしながら、神田の肩を叩いた。
「……神田君、ちょっといいかな?」
「何だよ。俺に触んな!」
「ま、いいから、ね?」
 コムイは押し出すように、神田を部屋から連れ出した。

 

 

 一時間経った。

 

 意気揚々と食堂に戻ってきたコムイは、ニコニコ顔でみんなに手を振った。
「あ〜、みんな、改めて紹介するよ! 今度、僕らの仲間になった神田君!」
 コムイはポンと神田の肩を叩いた。

「………あっ」

 神田の体がビクッと震えた。泣いた後らしい、赤く染まった目が僅かに背けられる。

 

「…………………………」

 

 みんなは言葉もなく神田を見つめた。乱れた衣類。ほつれた黒髪。まだ紅を残した頬。コムイの手の感触にあからさまに動揺する姿は何があったか一目瞭然である。
「ほら、神田君、挨拶!」
「……よっ………よろしく…おねが…いし…ま…す」
 神田は殆ど呟くように頭を下げる。

 

(うっわぁ………)

 

 別の意味で全員引いたが、コムイは無事に挨拶が完了したので上機嫌だ。
「よしっ、みんな神田君と仲良くね! じゃ、神田君、行こうか。教団の中を色々案内して上げるよ」
「…………」


 コムイに引きずられるように連れていかれる神田が扉の向こうに消えた瞬間、部屋中に大きな溜息が満ちた。
 エクソシスト、しかもあの神田相手にコムイは顔に擦り傷一つない事が、みんなを動揺させる。

(……やっぱり若くして、無理矢理、科学班の室長になっただけはあるよなぁ)

 コムイに逆らわない方がいいと、言葉もないまま全員が固く誓うのであった。

エンド

神田入団時。コムイさんてコワイと思う(笑)

神田お題へ

 

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