沈 黙

 

 部屋に二人きり。
 エドはロイに半ば背を向けるような姿で立っている。
 出来ない事、割り切れない事、力が足りない事。まだ子供でしかない事。それを思い知らされて、でもそれを認めたくなくて、半ば意地のような感じで背を向けて立ち尽くしている。
 アルならば、何処かで折れているだろう。気の利いた事を言って、別の事に目を向けるような事を話して、遠回りながら、エドを振り向かせる。
 だが、この男は何もしない。
 冷たい言葉。冷徹な論理。大人の理屈。
 与えられるのは、それだけだ。
 どれをとっても、エドには認められない。認めたら、何か自分の大事なものを揺るがすような気がして振り向けない。
 それは大佐だって解っている筈だ。
 人としてないがしろにしてはいけない事。同じ事件を共有し、同じ感情を持った筈なのに、大佐は微かに苦い顔をしただけで感情を表さない。
 全て解っていて、尚、余裕すら見せてエドが振り向くのを待っている。
「いい加減にしたら、どうだね」
 大佐が呟いた。言葉を口にするだけで、エドの側に行く訳でも、指一本動かす訳でもない。
 エドは動かない。自分の中の意地が磨り減って、ただ石のように固く変質してしまったと感じても、足も首も動かない。
(大佐の方から動くまでは、動くもんか)
 そんな駄々っ子のような感情に気づいて、エドは動揺する。あいつから、あいつの方からでないと駄 目だ。
 でも、大佐は動かない。
 ただ、両者とも時計の針が動くのを感じているだけ。
(何で動かないんだ)
 エドは逡巡する。苛立つ。いっそ挨拶もせず、出ていけばいい。アルが待ってる。今回は自分より傷ついただろう弟が。
 だけど、エドは動けない。睨むように外を見続けている。
 ふとガラスに映る大佐に気づいた。彼は笑っていない。いつもエドといる時の揶揄するような笑みがない。
(いっそ嗤ってくれればいいのに)
 そしたら、いつもの二人に戻れる。いつも怒って、掴みかかるような気分でいたい。
 こんな沈黙は苦手だ。ピリピリする、電気を孕んだような空気は知らない。壊したい、壊したくない。その空気の下にあるものなど知りたくない。
 アルとだって知らない。こんな空気は。
「鋼の」
 再び、ロイが呟く。ただの言葉。空気を揺るがせない無意味な声。
 彼はエドが焦れるのを待っている。待っていられる。その事が忌々しい。
 断ち切りたい。でも、動けない。その下にいる自分の姿を見たくない。
(だって、俺は)
 エドは心の中でその先が続けられない。
 言うのは見るのと同じ事だから。
 今、振り向いたら嗤うだろうか。いつものように大佐はからかうように笑ってくれるだろうか。
 そしたら、それだけでもう充分なのに。自分は何を恐れているのか。
 だが、エドは振り向けない。大佐も動かない。自分を持て余して、この空気に縛られて動けない。
(いっそ雨でも降ればいい)
 空を睨む。外部からの救いを待つ。
 だが、時計の針が動くだけだ。
 沈黙の壁に阻まれて、二人はただ立ち尽くしている。


                                        エンド

 

 

ロイエド第2弾。
意識し合って、背中越しのお見合い状態。 見合って、見合って〜v
時期的にタッカー家直後程度。
私的にアルエドが肉欲なら、ロイエドはドロドロの精神的恋愛(普通、逆でんがな)
ロイエドの方がなーんも考えなくていいんで楽チン。掲示板一発書きだもんね。 でも、精神的なんていいつつ、いずれ、試合、仕切り直し、がぶり寄り、押し倒しとなるんでしょう。 その後、ホークアイさんから、物言いがつくと面白いざんすね。

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