「罪滅ぼし」
「ふ〜、重かった」
リーバー班長は数十冊の本を机の上に積み上げた。
「はい、これで全部ですか?」
アレンはその5倍はある量の本が詰まった箱を隣に積み上げた。発動していた左手を元に戻す。
「助かったよ、アレン。全く室長は人使いが荒いからさ」
リーバーは汗を拭いながら笑った。
「後、整理でも手伝いましょうか?」
「いいよ。こういう時くらい休んでなよ、アレン。いつ任務があるか解らないんだからさ。久しぶりに帰ってきたばっかりだったのに悪かったな」「いいんですよ。この左手がアクマを倒す以外に役立つ事があって、僕、ちょっと嬉しいんです」
「そっか」
リーバーは鼻の下を掻いた。
(いい子だなぁ)
と、つくづく思う。あの元帥の下でよくこんないい子が無事育ったものだ。
「じゃ、僕はこれで」
アレンはお辞儀して身を翻した。箱を覗いて回っていたティムキャンピーが後を追う。
「おい、アレン」
ポンと真っ赤な林檎が飛んできた。
アレンは器用にそれを受け止める。
「罪滅ぼし」
リーバーは片目を瞑ってみせた。
「罪滅ぼし?」
「君の貴重な時間を戴いちゃったから」
いいんですよと肩をすくめて、アレンはそれでも嬉しそうに笑った。
「そんで、もらってきた訳?」
ラビはアレンが大きな林檎をナイフで割るのを眺めた。真っ白な果実から爽やかな匂いがする。
「ええ、おいしそうですね。芯の部分に蜜が多いから、きっと甘いですよ」
アレンの真っ赤な瞳と赤い林檎がおそろいで綺麗だ。アレンは器用に皮を剥くと、皿に並べた。
「……………へぇ」
ラビは皿に並んだ林檎を見つめた。どれも綺麗に皮を『うさぎ』みたいに切ってある。
(子供みてぇ)
「さぁ。神田、ラビ、どうぞ」
アレンは一つ取ると、白い歯でしゃりっと噛んだ。
ラビはやや躊躇したが、神田はあっさり取って食べる。
「ああ、やっぱり甘いですね」
アレンは嬉しそうに笑った。神田は何も言わないが、珍しく文句も言わず二個目にかかっている。どうやらお気に召したらしい。
「あれ、ラビ、林檎嫌いですか?」
アレンは不思議そうにラビを見た。
「いや、そういう訳じゃないけど」
「要らないなら、無理に食うな」
「もう、神田。そういう風に言わないで下さい」
「うるさい、モヤシ」
神田は早くも三個目を取り上げた。意外に林檎が好きらしい。
「アレンさぁ、いつも林檎はうさぎさんに切る訳?」
ラビは諦めて林檎を囓りながら尋ねた。甘い。口の中で素晴らしい芳香も漂う。
「何言ってんだ、ラビ?」
神田がラビを見た。アレンも頷く。
「林檎はうさぎさんに切るに決まってるでしょ?」
「……………………」
ラビは林檎を黙って囓る。
二人を見比べて、もう一口食べた。
(こいつら、デキたな)
心の奥で直感した。
皿の上のうさぎは何も言わないが、林檎は罪の果実だから。エンド
アレンたんはうさぎさん。
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