「オフリード」 2


 乾いた唇に舌を這わせる。
 唇が乾いているなら水分補給すればいい。
 舐め回して、水分を与える。
 吐息と唾液を通し、酒の味がほのかに伝わってきた。

(…雪男の唇…おいしい)

 嘗め回すのが止められない。まるでネコのように舌を鳴らす。
 心臓だけでなく、頭の中も心臓があるようだ。
 ぼぉっとしてきて、まともな思考が出来ない。

(え、俺、溜まってたの?)

 自分が盛ってると思いたくなかった。
 悪魔だからって、そんな淫らな身体になってしまったなど。

(お前が悪いんだよっ。俺のベッドに寝てっから…。
 誘ったのはお前だろ?
 俺は悪くねぇし、おかしくもねぇ)

 自分を正当化しながら、燐は舐め続けた。
 心拍数と体温が上がっていく。
 唇だけじゃ物足りなくなって、頬や耳も舐めた。
 邪魔な襟をグイッとずらし、そこも吸う。
 そのたびに雪男がびくんと震えるのがたまらなかった。
 肌がチリチリする。体が熱い。
 与えられる悦びを知った部分がキュウキュウと収縮を始めている。
 腰のものも重くなり始めていた。

(うわ…ズキズキする)

 これが雪男から触れられた反応なら

『いつまでも弄くり回してねぇでさっさと挿入れろ!』

 とか文句が言えるのだが、自分のした結果だ。
 恥ずかしいが、同時に歯止めが効かなかった。
 元々、自由奔放が燐の信条だ。我慢するのは苦手だった。
 行き着く果てまで辿り着かねば止まらない。
 いつしか勝手に腰を雪男の足にグイグイと擦りつけていた。
 布越しに雪男の引き締まった筋肉を感じる。それが快い。

(ダメだ…止まんねぇ)

 ベルトを外し、きつくなったズボンを下着ごと摺り下ろす。
 既に下着は糸を引く程ぐっしょりと濡れていた。

(ええっ、こ、こんなに…っ)

 顔を枕に埋めたい程恥ずかしい。通
 常は男の体と何ら変わりはない。
 乾いてるし、男を受け入れるなどあり得ない。
 なのに、雪男に抱かれてから変わってしまった。
 触れられるだけで、蕾から女のように蜜が溢れる。
 最近は雪男に指を挿入れ、掻き回されると、止めどなく溢れて飛び散り、シーツをびしょ濡れにしてしまう程だ。

『これ、潮を吹くっていうんだって。悪魔って皆そうなの?
 それとも兄さんだけ? 兄さんはホントにエロいよね』

 何処で潮噴きなんて言葉を教わったのか。
 そして教えた奴を殺してやりたいが、燐の体はそういう仕様に変化してしまったらしい。
 男なのに女みたいに相手を受け入れる体などおかしいだろう。
 確かに痛くない方がいいし、気持ちいいのは大歓迎なのだが、ますます人間と離れていく気がする。
 悪魔は快楽に貪欲だから、そういう風に適合するのか。
 さすがにメフィストに聞ける話ではない。

『さぁ、あなただけじゃないですか? 私はそんな事例は聞いたことないですねぇ。
 見た目は硬派に見えるのに、そんな事に関心がお有りとは。
 嬉し恥ずかしスケベ盛りの思春期だからですか?

 しかし、奇妙ですねぇ。
 いくら悪魔とはいえ、そんな生理現象を起こすのは、その対象がいるからだ。
 一体、どこのどなたですか? あなたをそんな体にしたのは。
 当ててみましょうか?
 やはり近しいご学友の勝呂君、志摩君…おやおや、図星かなぁ。そんな顔を紅くして否定して。
 それとも、まさか禁じられた近親相姦。
 あなたの唯一の血を分けた肉親。あなたの双子の…』

「うるせぇぇっ!」

 慌てて振り向いたが、メフィストの姿は何処にもない。

(えええ、何故、今耳元で喋ってるような気がしたんだぁ?)

 考えると怖いので、深く考えないようにする。

(そうだよな。この広い寮に俺達二人きりなんだから)

 クロとニコバクがいるが、それは勘定には入らない。
 最初は静か過ぎないかと思ったが、こんな関係になったのでむしろ都合がよかった。
 自分がどんな大声を上げてしまっても、兄弟で背徳行為に耽っても、誰にも知られない。
 それでも、自分の生理現象が恐ろしかった。
 雪男に全然触れられてないのに、太腿までこんなに濡れそぼってしまうなど。
 顔形はそのままなのに、そこだけ変化するなんて。
 まるで自分が淫乱になってしまったようではないか。

(くそ〜、雪男の奴が悪いんだ。
 あんなにいつもグチョグチョ俺がイクまで弄るから。
 俺の体、どんどん変になってくじゃねぇか。
 俺のせいじゃねぇ! 俺はやらしくなんか…)

 そう言い訳しながらも、燐は雪男の股間に目をやった。
 祓魔師のブ厚いコートをめくり、ズボンを露わにする。
 それは既に少し布を押し上げていた。
 ゴクンと音が立つほど唾を飲み込む。
 その音すら雪男に聞かれないかと緊張したが、やはり雪男の瞼は動かない。
 燐は布越しに雪男のものに触れた。
 熱い。固い。こんなにはっきり解る。
 燐は自分を誤魔化すようにハハッと笑った。

(見ろよ。雪男なんて意識ねぇのに、俺から唇舐められた位でこうなってるじゃねぇか。
 やっぱ絶対、俺よか雪男の方が変態でやらしいって)

 ゆっくり擦ってみた。指で時折育ったか確かめる為、キュッと握る。
 そのたび、雪男のものが存在感を増すのがはっきり解った。
 雪男だけでなく、それも時々ビクッと震える。

「あ…ふ…」

 雪男の口からも微かに甘い吐息が零れ始めた。
 目元が紅い。
 ビクンビクンと薄い瞼が震えている。
 軽く開いた口がわなないていた。その姿がそそる。

(寝てても気持ちいいんかな?)

 夢精の時、勝手に立ってるから、恐らくそうなのだろう。
 凄く色っぽい。もっと触りたい。雪男の匂いが嗅ぎたかった。
 雪男のものがどうなってるか見たい。
 燐は雪男のズボンのファスナーを口で銜えた。
 そのままゆっくり引き下ろす。
 雪男にせがまれても絶対断るような事を自分からやっていた。
 それが一層燐を興奮させる。

(俺、何やってんだろ。これ、絶対イタズラの範疇越えてるよな。
 頼むから、今、目を覚ますなよ、雪男。
 こんなん知られたら、俺死んじまう)

 いつも合意の上だった。
 強引はあっても、一方的にした事はない。
 なのに、少しお預け食っただけで、自分は我慢できなくなるのか?

 (いくら久しぶりだって…こんなの無理矢理じゃねぇか。
  やべぇ、ダメだって。こんな事いけねぇよ…)

 でも、やめられない。どうしても見たい。体が疼く。どうしても雪男が欲しい。今すぐに。

(いいんだ。雪男の奴は寝てるの起こすと怒るから)

 ファスナーを下ろし切ると、雪男の匂いがムワッと鼻についた。
 昔は雪男臭ぇと思うだけだったのに、今は妙に胸がざわつく。
 ボクサーパンツにしみが広がっていた。下着を持ち上げんばかりに膨らんでいる。

「ははっ」

 何となくザマーミロと胸がすく思いがして、燐は軽く笑った。

(雪男の匂い…)

 双子なのに、自分とは違う雪男だけの体臭。
 長く閉じ込められていたそれは燐の敏感な鼻腔を直撃する。
 一層官能を揺すぶられ、燐は思わず舌を伸ばして、しみを舐めた。
 汚いとは思わなかった。
 理性は快感の前では何の役にも立たないと、とっくに体に教え込まれている。

「ん…んふ…」

 雪男がむず痒そうに身じろいだ。足がシーツを爪弾く。

(うわっ、うわぁぁ、これって俺が雪男を抱いてるみてぇ)

 いつも雪男に翻弄されているので、何だか新鮮だった。
 普段は燐が自由奔放でも、ベッドでは雪男にほぼ支配権を握られている。
 その屈辱を返すようで快い。
 雪男にすれば『どの口が言う』と反論するだろうが、今は完全に燐の天下だ。

 燐は夢中でボクサーパンツとズボンを引き下ろした。
 半分以上立ち上がった雪男のものが跳ねて、抗議のように燐の頬をビシと打つ。
 先走りが燐の顔を汚した。

「へへっ、これが精一杯かよ。全っ然痛くねぇよ、雪男」

 燐はほくそ笑みながら、それを指で摘んだ。
 紅くて重い。ドクドクと脈打っている。
 自分がこんなにしたと思うと小気味いい。

(うわ、凄ぇな。あ、垂れた…)

 先走りの水がこぼれるのが何だか惜しくて、舌で舐め取る。
 それだけで雪男のものはビクビクッと震えた。
 かわいい。
 別にうまくないが、雪男の味というだけでもっと味わいたくなる。
 飴をしゃぶるように舌を這わせた。

(俺の顔をちんちんでぶった仕返しだからな)

 簡単にイカせるつもりはない。焦らして焦らして、それからイカせてやる。
 雪男が起きない寸前まで焦らすのは難しいが、やってみせる。
 いつも自分ばかり泣いて懇願するまで焦らされる仕返しだ。

「ふ…ぅんん…」

 燐は必死に銜えた。息が上がる。
 浮き出た血管に添って舌を這わせ、筋を辿る。
 抱かれてる時は気持ちよすぎて我を忘れるので、普段雪男にどんな風に抱かれているか、余り思い出せない。
 だが、自分が好きな部分を責めてやればいいだろう。
 後は雪男が反応する所を見つけていけばいい。

(ここかな?)

 先端にキスをすると、両足がビクッと痙攣した。
 指で擦りながら、陰嚢をしゃぶり、幾度も上下に舐め上げる。
 そのたびに雪男の内股がビクビクと震え、呼吸が荒くなっていく。

(多分…これでいいんだよな?)

 初めてするのでよく解らない。
 足をもっと広げようと内股の皮膚の薄い部分に触れると、雪男は激しくびくついた。

「え?」

 試しにもう一度触れると、またビクビクッと跳ねる。

(へぇ、雪男。こんなとこがイイんだ。俺とは違うのな)

 二卵性だからか。いつも抱かれてるばかりで、改めて自分も雪男の体をよく知ってる訳ではないと思う。

(もっともっと知りてぇ。雪男のイイとこ)

 そっと片足を持ち上げた。雪男の奥が露わになる。
 雪男の先走りと燐の唾液で濡れているのが艶めかしい。
 蟻の門渡りや蕾の濃いピンクが目を奪う。

(うわぁああああ、お、男ってこうなってんのかぁ。
 考えたら、俺、自分で見た事はねぇもんなぁ)

 雪男に散々見せたかと思うと癪に障る。
 もっともっとよく見たい。
 雪男が見た部分を自分も見たい。

 
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