「うた 2」


 僕は歌を唄うのが好きだ。


  自分ではよく解らないけど、人からかなりうまいと言われた。
 どんな人でもあなたの歌には耳を傾けるよ。
 そんな風に言われた。
「一緒に歌わない?」
 と、ライブハウスで歌ってる人からも誘われた。


「一緒においで」


 多分、そんな意味だったと思う。
 その人は国中を転々とする人だったから。


 それは今だって一緒じゃない。
 兄さんとじゃなくて私ではダメ?
 あなたは錬金術師なの?
 そうなんだ。



  でも、もったいない。
 そんなにうまいのに。


 僕は困ってしまう。
 僕が歌うのは、いい加減な鼻歌だもの。
 僕が歌うと、鎧が振動する。
 僕は何も感じられないけど、その『感じ』が好きだ。
 ライブハウスに来たのも、ただ音楽が聴きたかったから。
 暗闇に溶け込んで、他人と同じ影になって、音が聞きたかったから。
 色んな旋律が絡み合って、反響して、僕の魂を震わせてくれるのが好きなんだ。
 ただ、それだけなんだ。
 誰に聴かせたい訳じゃない。



 それはそうだよ。
 その人は言った。
 歌は自分のものだもの。誰かの為にと思う事もあるけど、思いを伝えたい事もあるけど、
その歌は自分の中から出たものだもの。
 自分の心を奏でるようなもの。自分の心を解放する為のものだもの。



 じゃあ、どうして?
 と、その人は笑う。
 アルフォンスは兄さんの為に歌わないの?
 故郷や風景や自分の思った事だけを歌うの?
 兄さんがなかなか戻ってこなくて、淋しくてここに来たのなら、兄さんを想って歌えばいいのに。
 そしたら、兄さんに届くかもしれないのに。


 そうだね。
 僕は空を見上げる。
 もし、兄さんが本当にいなくなってしまったら、僕は兄さんを想って歌うだろうか。
 僕は疲れる事がないのだから、錆びつくまで歌い続けていられる。
 きっと考えるのは兄さんの事だけだから、僕は消えてなくなってしまうまで
 兄さんの為に歌い続けられる。



 そうでしょう?
 その人は笑う。
 でも、淋しいよ。そんなの。
 だから、私とおいで。
 私といれば、いつも音楽と一緒だよ。
 私がいなくなっても、音楽はいつまでも続く。もう闇の中に隠れていなくてもいいんだ。音楽を愛する人達があなたを愛してくれるよ?
 たくさんたくさん。


 ねえ、アル?
 アルフォンス。
 錬金術をやって幸せ?
 あなたは将来、どうしたいの?
 本当はどうしたいの?


 僕は笑う。
 僕はそんなにたくさんの事、望んでないよ。
 錆びつくまで歌わないよ。
 僕の歌は只の鼻歌。
 僕が本当にやりたい事は兄さんと歌う事。
 一緒にいる事。
 永遠なんていらないよ。


  それもいいか。
 その人はやっぱり笑う。
 歌は自由なものなのに
 歌であなたを縛り付けるところだったね。


 いいよ。
 僕は笑う。
 だって、歌は僕の中から滲み出してくるものだもの。



 それに僕は知ってる。
 兄さんはいつも僕の歌に耳を傾けてくれる。
 聴いていない振りをしてても、僕には解るよ。
 ただ、その時が僕の幸せ。

エンド

「うた」の続編。
本当は別に長い長い話を用意してるんだけど、 いつになったら書けるやら(^^;

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