「もう、ラビ! 僕の方に向けちゃ駄目でしょ!」
「だって、変なんだもん、これ」
ラビは保存していた神田の『心』のメモリーを表示する。そのシンプルさに二人は顔を見合わせた。
「あの、これって…」
「うん、このユウリンガルが壊れてないんなら…」
よく言えば、神田は裏表のない性格。
悪く言えば、何も考えていない、という事だ。
「あの、これじゃ全然この機械、役に立たないって事じゃないですか」
「そうだなぁ。でも、いいじゃん。ユウの言ってる事が全部本当って事だろ?」
「そうですね。じゃ、『側にいろ』って言ってくれた事も、他の全部の言葉も本気なんですよね」
アレンは思わず頬を染めた。神田の言葉にウソがない。それはどんなに嬉しい事だったろう。
「でも、結局、仕事じゃ何の事態の解決にもなんねぇって事さぁ」
対称的にラビは大きな溜息をつく。その二人の間に、黒い影がズイッと割り込んだ。
「……おい」
「わっ!」
鋭い神田の視線に二人は飛び上がった。
「さっきから俺を無視して、何ゴチャゴチャやってんだ、モヤシ。呼んでるんだから、答えろ」
「はっ、はい! 何ですか?」
「俺の前で赤毛うさぎといちゃいちゃすんな。本気で謝る気あんのか!?」
「えっ、あ、あります! 僕…」
「それに何だ、それは。ユウ何とか言ってたが」
「ああ、その、ユウたんてかわいいねぇと言ったんさ」
「お前は黙ってろ、ラビ。俺はこいつに聞いてんだ!」
「神田、ケンカしないで下さい。ラビは僕の事を心配して…」
「お前の心配は俺がする!」
神田は叫んだ。ラビは眉をひそめる。
「じゃ、アレンに心配かけんなよ、ユウ」
「そうですよ、神田はやっぱりちょっと言い過ぎです」
神田の眉が吊り上がった。
「うざってぇ。お前、どっちの味方だ!? ちょっと来い、モヤシ。まだ勉強が足りねぇのか!」
「い、痛っ! 神田! 痛いって!」
猫のようにアレンの首筋を掴むと、神田はズルズルと自室の方に引きずっていく。
「ユウ」
ラビは溜息をついて、その背中に呼びかけた。神田がギロリを見返す。
「溜まってるからって、そこそこにしないとアレン、壊れちゃうよ〜」
「うるせぇ、今度、俺のにベタベタ触ったら殺すぞ、ラビ!」
神田は睨むなり、振り返らずに去っていく。
(若いってヤダね〜)
ラビは溜息をまたついて、回廊に凭れた。
神田の機嫌の悪さの理由が何となく解った。神田に気を遣って、アレンは探索部隊と仲を取り持とうとしたのだろう。だが、神田は『誰にでも仲良くするアレン』の姿が気に食わなかったのに違いない。
探索部隊は体育会系が多いから、スキンシップをよくやる。アレンは小柄だから、ラビのようによく肩を叩いたり、頭を撫でたくもしたくなるだろう。それを神田は目の当たりにしたのだ。誤解があっても、恋人同士ならほんの少し触れ合えばすむ事だが、短期任務だったから、二人きりになれる事は出来なかっただろう。
しかも探索部隊をかばうような事をアレンは何か言ったのかも知れない。
嫉妬深い神田が切れるのは時間の問題だった。
(しかし、俺の、かぁ)
ラビは苦笑いした。
(もうモヤシでも、アレンでもないんだ)
それが何だか悔しかった。
ふと画面を見る。
『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』
一面、同じ文字で埋まっていた。
「チェッ」
ラビは思わず苦笑する。感情の制御が効かない恋は難しいだろう。アレンはああいう恋人を持って、まだまだ苦労するに違いない。
「ホント、何であんなんばっか好きになるかなぁ、アレンは」
優しい恋をすればいいのに。
だけど、それは余計な気の回しすぎなのかも知れない。
ラビはふと自分に卵を向けてみた。スイッチに手を掛ける。
「…………」
自嘲するように肩をすくめると、ラビはポイッと卵を放った。
その後、卵を探索部隊が拾い、色んな騒動を起こした後、アクマを経由して、ロードが手に入れたせいで、千年伯爵と愉快なノア一家の間でドロドロの人間模様が繰り広げられる羽目になるが、それはまた別 の話。エンド
「神田アレンアンソロジー」参加作品。
だから、 書いたのは昨年の夏でした(笑)
何となくラビアレ風味ですが、神アレです(笑)
主催者様が同人を引退されたので、 もう時効成立で掲載に踏み切りました。
あおいちゃんにもらったネタです。バウリンガルが流行っていた頃ですね〜。
懐かしい。あおいちゃんに捧げる。
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