「……俺を食べたくねぇの?」
  ああ、もう前言撤回。兄さんの声って、もう色っぽくてハスキーで僕の魂にビンビンきて、理性なんて無くなりそう。
  でも、洋酒とチョコの匂いまで僕の記憶はフォローしてくれない。悔しくってたまらない。 バレンタインなのに。兄さんを象ったチョコを戴くようなもんなのに。
  戻りたいよ、もう。想像だけなんて本当に悲しいよ。 でも、そんな事は今はどうだっていい。目の前にいる御馳走に手を伸ばす。
「いただきます」
  僕は兄さんの脇腹からシャツに添って撫で上げた。触った感じは解らなくても、小さな胸の突起に来ると、兄さんの目元がピクッと震えるからすぐ解る。
  昔から弱い所一杯あるんだよね、兄さんは。僕は指で、そして大きな手のひら全体を使って、兄さんのそこを軽く揉んだ。
「あ……んっ」
 兄さんは思わず僕の首にしがみついた。足がシーツをグッと爪弾く。僕は思わず笑った。お酒の効果 かな。何かいつもより感度がいい。 僕は紅い飾りをいじりながら、片手で兄さんの腰に手を下ろした。ほんのちょっと包み込むと、それだけで兄さんの身体がビクビクッと震える。
  勿論、なめし革の手や身体が兄さんの震えを感じる訳じゃない。でも、僕と兄さんの身体が密着してて、兄さんの身体に電流が走ったりするたび、僕の魂もビクビクッとするんだよね。
  それとも、これも想像なのかな。人間の身体には微量だけど電気が流れてる。興奮するとそのボルトが上がるみたい。兄さんは手足が機械鎧だから、その電圧が他人より高いみたいだし。
  僕は鉄の身体で兄さんの電気を感じ取ってる。一緒に震える。僕の魂に兄さんの快感がダイレクトに伝わってくる。 それとも、兄さんの血のざわめきが僕の血印と反応してるのかな?
  メカニズムなんて解らない。どっちでもいい。僕が『気持ちいい』のは、こうして兄さんを抱いている時だけだもの。
「窮屈そうだね」
  僕は兄さんのズボンのジッパーを下ろす。ゆっくり下ろす。兄さんをじらすのもあるけど、ジッパーの音に僕が興奮するからだ。ともかく僕は聴覚と視覚しかないから、出来るだけそれを活用しなきゃ。衣擦れもボタンを外すのも脱がす事には変わりないんだけど、ジッパーの音は決定的でいやらしい。
  ジッパーを下ろしきると、兄さんのが下着を押し上げて膨らんでいる。土の下から芽が出てくるみたい。
「何だか、かわいい」
  僕が撫でながら笑うと兄さんは変な顔をする。
「おかしか…ねえだろ」
「だって、かわいいんだもん」
「変な奴」
  兄さんはむくれる。むくれながら感じてる顔もかわいい。このまますぐ追い上げるのもいいけど、せっかくのバレンタインだしね。
  まずそっと兄さんの髪を結んでいた桜色のリボンをほどいた。癖がついてうねった金髪がうなじに流れた。窓からの陽光を浴びてきらきら光る。柔らかくて長い髪。僕の無骨な指の間をさらりと滑った。
  そっとベッドに横たえる。僕の折り畳んだ綺麗な包み紙やリボンがベッドのスプリングで跳ねて崩れ、兄さんの下で乱れて広がった。僕はリボンを幾つか拾って兄さんの金髪の上に落とした。
「えへへ、僕だけのチョコだ」
「アホ」
  呆れながらも、兄さんも笑ってる。
「さっさと開けて、食えよ。溶けちまうぞ」
「僕は一粒を大事に食べる方だもん」
「全くお前は昔っから、そう…………んっ」
  僕に身体をまさぐられて、兄さんは顎を上げた。包み紙が兄さんの下でかさこそ音を立てる。何だか本当にプレゼント開けてるみたい。僕はゆっくり包み紙を開ける。丁寧に折り畳む。兄さんの吐息が細かくなった。目を軽く瞑ってる。時々薄い瞼の下で眼球が動いてる。
「あ…ああ…や」
  僕は兄さんを煽りながら、脱がせた服を脇の椅子に投げた。白いシーツと色とりどりの紙の上で兄さんの白い身体が浮かび上がる。不規則な生活と長旅ながら、身体を鍛えているせいか、均等がとれて肌の艶もいい。兄さんの衣食住には気を遣ってるからね。
  でも、体中、大小の傷で一杯だ。機械鎧接合の無惨な傷だけじゃない。喧嘩バカのせいもあるけど、兄さんの傷の多さは僕らの旅の困難さを物語る。僕はこれを見るのが悲しい。
  僕には傷がない。鎧の傷は錬成すればすぐ直る。 例え、元の身体に戻っても僕には傷がないだろう。兄さんと乗り越えた旅の思い出は、兄さんを護る為につけた傷は反映されないだろう。それが悲しい。兄さんは僕を護る為につけた勲章で一杯なのに、もっともっと増えてしまうだろうに、僕は無傷で身体を手に入れる。何だかそれはイヤだ。
  兄さんと一緒でいたい。兄さんを護ってついた傷なら、僕は誇らしいのに兄さんは僕がそう言うと怒る。傷一つない綺麗な身体でないと、完璧でないと駄 目だって言う。
  兄さん、勝手だよ。切ないよ。僕にも少しくらい傷を分けてよ。 僕は兄さんの身体を愛おしげに撫でる。傷の一つ一つを大事に辿る。脇腹の大きな傷。肩の傷。ウィンリィは機械鎧の修理の時、これ見ていっつも溜息をつく。こっそり増えた傷の数を数えて、いつもこっそり泣いている。
  僕は泣けない。泣いてあげられない。兄さんも僕の為の涙をこらえてるから、僕はもっと切なくなる。だから、我慢する。悲しみを飲み込む。本当に馬鹿で愛おしい僕の兄。

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