「きつねのしっぽ」 1


「ツキカミに問います。現在のハートの所在と所有者を教えて戴きたい!」

 戦いが終って、ようやく皆がやれやれと思ったところだった。まだ孤児院の封印も解けていないし、院長先生達の人形化も直さなくてはいけない。エミリアも元気そうだが、実は重傷である事に変わりない。ティモシーは初めてのまともな発動に疲労困憊でフラフラだ。

 なのに、人形化が解かれ、状況を知ったリンクの開口一番がこれだった。  同じく疲れてイライラしている神田が眉を上げる。

「おい、んな事どーでもいーだろうがよ」
「どうでもよくありません! 一番重要な事じゃないですか!
 ティモシーはアクマがいないと発動出来ない以上、ツキカミがいる今でしか聞けません。
 それが解らないんですか!」
「解らねぇよ。アクマなんぞ何処でも大量に湧いて出やがるんだから、いつでもいいだろう」

 睨みあうリンクと神田の間に、エミリアが割って入った。
「ちょっと、待ってよ!本気でこの子を教団とかに連れてく気なの?」
「あんたも見てただろう。こいつはエクソシストだ。まだ反対する気か」
「するわよ! だからって、ティモシーの気持ちも聞かず、連れてく事はないでしょ!  こんなに小さいのよ?
 それにここに残りたくてこんな力を身につけちゃったんだから、ここの近所で起こる危なくない事件だけ参加するって事にすればいいじゃない」
「チッ、これだから女は…」
「何ですってぇ!」

 話が拗れそうなので、アレンは慌てて止めに入った。
「エミリアさん、無理なんです」
「何が無理よっ!」
「エミリア、俺、いいよ。決めたんだよ」

 ティモシーはエミリアのスカートを引っ張ったが、エミリアの角は引っ込まない。

「ティモシー、あんたは黙ってて! 私、この人達と話してるんだから!」
 凄い剣幕にアレンはたじろいだが、続けた。
「ここにイノセンスがある事を知られてしまいました。アクマ達は何度でも襲ってくるでしょう。ここじゃまたあなた方を巻き込んでしまいます。そんな事、ティモシーだって望んでないでしょう」
「…それはそうかも知れないけど、向こうに行ってもティモシーはあんな化物と戦わなくちゃいけないんでしょ?」
「当たり前ぇだ」
「神田、口を挟まないで下さい」
「うっせぇぞ、もやし。お前こそ話に入ってくんじゃねぇ!」
「頭ごなしに言っても話は通じませんよ、バカンダ」
「お上品な言葉で取り繕えば納得させられるのか。くだらねぇ」

 ケンカを始めた二人の頭上でティムと神田のゴーレムも火花を散らし始める。

「勝手にケンカ始めないでよ。要するに、ここにいても向こうに行っても同じなら、ここにいればいいじゃないの」
「だから、それは危険なんですって、エミリアさん」
「第一、ここはメチャクチャに壊れたんだぜ。今更孤児院なんかやってらんねぇだろ」
「それもそうだわ。どうしよう」

 女性が困ってるのを見てられない紳士のマリが身を乗り出した。
「それは大丈夫だ。ティモシーが教団にくれば、ヴァチカンはきっと孤児院の経費も負担してくれるだろう。教団は残された家族の面 倒を見る事になっている」
「何ですって? 冗談じゃないわ…」
 蒼ざめたエミリアにアレンは首をかしげた。
「何が困るんです、エミリアさん」

「当たり前じゃない。それって、ティモシーをあんた達に売るって事でしょ?やめてよ。大事な子供を売って、それで孤児院を続けるなんて院長先生が聞いたら何とおっしゃるか…」

 アレンとマリは顔を見合わせて当惑した。神田1人がそっぽを向いている。

「いいわ。じゃあ、私達全員が教団に行けばいいんだわ。そしたら、ティモシーの面 倒も見られるし、ティモシーも私達と離れないで済むじゃない。どう、ティモシー?」
「あっ、そうか! それ、いいじゃん! なら、俺そっち行く!」
 ティモシーはバンザイした。すっかりその気だ。

「ちょっと、待て。教団を幼稚園にするつもりかっ!」
 神田の額の青筋が増える。

「幼稚園じゃなくて、孤児院よ。大丈夫、孤児院が修理されるまで泊めてもらうだけだから。終ったら、ティモシーと一緒に帰るわ」
「冗談じゃねぇ! 遊びじゃねぇんだ!」
「解ってるわよぉ。教団じゃ私も何か手伝いするから。洗濯とか掃除とか出来る事あるでしょ?」
「んな事言ってんじゃねぇ!」

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