「ちょっと皆さん、静かにして下さい。私がツキカミと大事な話をしようとしてるのに、何故後でギャーギャー下らない事で騒ぐんです?」

 リンクがこめかみに血管を浮かせて怒鳴った。

「下らない話じゃないわよっ!」
「下らなくねぇ!」
 エミリアと神田が同時に喚く。

「ハートより大事な話があるっていうんですか? そういうの他所でやって下さい!」
「他所って何処だよ。こっからまだ出られないからやってんだろうが。そこののろまもやしのせいで」
「何で、僕のせいなんですかっ!」
「手前がさっさと方舟のゲート開かないからだろ」
「ティムに調べてもらってます! 僕に文句言うのやめて下さいっ!」

 それをジッと眺めていたツキカミは一人部外者のマリに囁いた。

「あのー、こん人ら、いっつもこんなん?」
「まぁ、色々いるが概ね」
「ありゃー、騒がしいこっちゃなぁ。
  まぁ、そういうのも嫌いやないけど。マスターが疲れ切っとるし、そろそろ時間切れや」
「ええっ、ツキカミ様っ、お待ち下さい! ハートの話です、ハートッ!」

 慌てたリンクがサッと顔をそちらに向けた。

「ハートっちゅうても、ワイは他人さんの事までよぉ知らんからなぁ」
「そんな事はないでしょう? あなた方の最も大事なイノセンスですよ? 気配とか方向とか何か解る事であれば何でもかまいません。我々は伯爵にハートを奪われる訳にはいかないんです!」

 適合者であるエクソシスト達はともかく、リンクにはツキカミは見えない。ティモシーに頼んで通 訳してもらう。

「そりゃそうやけど、時期言うもんがあるからなぁ」
「時期?」
「そう。事が動く時、止まる時、戦う時、待つ時、色々や。まだ教える時期やあらへん。ワテもよう解らんが、そういうものなんや」

 ツキカミは手を振って、話を打ち切ろうとする。リンクは食い下がった。

「それが舞台と同じというなら、舞台の下で次の演目の準備をしてるものじゃないですか?
 我々は舞台に照明が当たって、ハートが現れる、まさにその瞬間に立ち会わないといけないんです。偶然では伯爵に横合いから掠め取られるかも知れません。万全の準備をしなければ。
 お願いです、あなたもイノセンスなら、神の使いだ。嘘はつけない筈です。
 ヒントでいい。教えて下さい」

 ツキカミは頭をボリボリ掻いた。

「全くなぁ。あんたみたいな人間に必死なられるとなぁ、聞いちゃおうかなぁって気になるわ」
「えっ、じゃあ」
「しゃあないわ。顔貸し?」
 身を乗り出したリンクの前で、ツキカミはいきなりパン!と手を叩いた。
「…………」
 リンクはそのまま動かない。

「え、あれ、リンク。どうしたんですか?」
 アレンはリンクの前に回った。リンクは瞬きもしないまま、同じ形で硬直している。
「んー。ちょっと猫騙し」
「猫騙し?」
「なーんか、かわいいから、この人」

 マジックを取り出すと、リンクの顔にキュキュキューっと髭を三本づつ書く。

「そうやなぁ、何かきつねに似てると思うたんやー。かわいいかわいい」

 ツキカミはコロコロ笑った。もう一度手を叩くと、今度は頭にきつねみみ、お尻にふさふさのしっぽが現れる。ツキカミは思わずギューッとリンクきつねを抱き締めた。

「ほらぁ、もう。かわいいかわいいかわいいっ」
「かわいいじゃありませんよ。殺されますよ」
「それも本望やなぁ。この子やったら。
 でも、ワテの本命はこん人。べっぴんさんやなぁぁぁぁぁ。こんなべっぴんさん見た事ないわ」

 ツキカミの視線は神田の頭上に注がれている。そこには神田そっくりの絶世の美人がいた。黒の地に紅い大きな花柄の着物をまとうイノセンスの化身。説明せずとも、それが六幻のイノセンスだと解る。

「ここで出会ったが百年の縁(えにし)。千年の来世まで語り合いたいわぁ」
「今日が手前の命日でいいなら、付き合ってやるぜ」

 神田はスラリと六幻を抜く。
 その目が完全に本気なのを見て、アレンは慌てた。方舟で平気で一幻を味方に放ったのを思い出したからだ。

「あああっ、もう! やめて下さい! 皆が怪我するでしょ!  とにかく今日はもう休みましょう。ティモシーも疲れて、半分寝かけてますし」
「えっ、あら、ヤバイ。ティモシー、寝ないで。院長先生達、元に戻してからにしてぇ!」

 エミリアはティモシーを揺さぶった。
 ツキカミはアレンの背後で笑う。

「ほら、時間切れや。ワテもさいなら、やな」
「え、リンクは?」
「三日ほど消えへんけど、大丈夫。本人には見えへんから」
「えっ、じゃあ、他の人には?」
「さぁなぁ。教えてやらんのも武士の情け。世は情け。ワイのしっぽはまだまだ見えん」

 ツキカミは消え始めた。アレンは慌てる。
「ちょっと、かわいそうじゃないですか! せめてヒントだけでも教えてあげて下さい!」
「しゃあないなぁ。『ここにあって、ここにないもの』。それや」
「何ですって? 意味が解りません」
「マスターを頼むで」

 ツキカミは消えた。一瞬ウインクされて、アレンは紅くなる。

「…何ーか、にぎやかになりそうだなぁ。とにかく脱出だ」

 ティムが羽ばたいて戻ってきた。アレンは頷いて、封印解除の為に歩き出した。

エンド

春コミ用に出したコピー誌より。
リンアレだけの予定だったのに、憑神さんに萌えて、どうしても書きたくて急遽一本追加。
とはいえ、リンアレアップ直後の明け方3時から1時間で書き上げたので、ほぼ台詞のみ。
しかも、第179夜のみで書いたので、翌日180夜読んで「あちゃー(^_^;)」と思ったが、
あえて直しません。
勢いは勢いのままでいい事もあるよね。
しかし、憑神さんて、もう少し曲者だと思ったのになぁ。
イノセンスも適合者もアクマと一緒で、レベル1から成長していくんですね。
精神的にも(笑)
まともな臨界者になったアレンがいまいち弱いのも、レベル1に逆戻りしちゃってるからか、頑張れ。
シリアスリンアレ編は週末あたりにアップします。

前へ  ディグレ部屋へ  

55 STREET / 0574 W.S.R / STRAWBERRY7 / アレコレネット / モノショップ / ミツケルドット