「ユウリンガル」

(…あらら?)

 ラビは眉を顰めた。
 神田とアレンが任務から帰ってきたというので、出迎えに来たのだが、どうも全員の雰囲気が険悪だ。神田と探索部隊だけなら毎度の事なので、気にもしない。だが、アレンを加えれば神田の人柄も少しはまろやかになるだろうというコムイの計らいも功を奏さなかったようだ。神田とアレンは並んで歩いているものの視線を逢わそうともしないし、探索部隊は二人からの落雷に備えて、避雷針を高々掲げている始末である。

(神田と探索部隊の誰かが衝突して、アレンが止めに入ったら、怒りの矛先がアレンに向いちまって、大人しそうに見えるけど、アレンも結構はっきり言う方だから、この二人のケンカに横滑りしてちまって、でも、任務中には仲直りのきっかけが掴めなくて、ここまで持ち越し…って、感じ?)

 ラビは燃え上がるオーラと雰囲気から、ザッと予想図を描いた。気の毒に探索部隊は針の筵だったろう。
(あちゃ〜)
 ラビは頭を掻いて、何も気づかぬ風に笑顔で二人に歩み寄った。毛を逆立てた黒猫に近づくと手ひどく引っかかれるのは解っているので、自制心のありそうな白犬に近づく。

「よ! 二人ともおっかえり。今回は無事で何よりじゃん。収穫は?」
「…………俺が届けてくる」
「…………どうぞ」

 地を這うような声がその返事だった。神田はラビに一瞥もくれず、本部内に消えていく。アレンはラビに能面 のような笑みを向けたまま、神田を見送ろうともしなかった。その底冷えのような空気にラビは内心冷や汗が流れるのを感じた。

「何か、あったさ?」
「別に……」
「一目瞭然なんだけど〜」
 ラビは手真似で探索部隊に先に行けと伝えた。彼らはホッとしたように足早に歩み去る。


「ユウと何があったさ。あいつの事だから、またひどい事言ったん?」
「そんな事ないです……でも、まぁそうかも。僕が気が利かないのかどうなのか。だけど、神田だって…」
「何さー。よく解らねぇの。どっちなん?」
「あの……」
 言いかけたアレンは一瞬躊躇い、ラビに向き直った。


「神田って、何であんなに言葉が足りないんでしょうか?」


「あん?」
 ラビは目をパチパチさせた。
「別に横暴とか、言葉遣いが悪いとかそうじゃないんです! 説明しないんです。余計な事だって、言うべき事まで言わないんです。後になれば、神田の言いたかった事も解ったんですけど、あれじゃ誤解されても仕方なくて。
 僕らが言う事は解ってくれる。でも、自分の事は解ってほしいって思ってないんです、神田は。余りそれが一方的すぎて、何だか悔しくて…」
「そんで怒った訳だ」
「…………」
 アレンは肩を落として立ち尽くしていた。ラビは溜息をつく。

「神田の事が好きだし、何もかもひっくるめて好きになったんですけど、今日は……神田とこれからもやってけるかなって思ってしまって…」
 アレンはラビが見つめているのに気づき、苦く笑みを浮かべた。

「だ、駄目ですよね。僕から好きになったんだから、こんな事じゃ…」
「アホ」
 ラビはいきなりアレンの首に腕を巻き付けて、ギュウッと抱くようにした。少し痛くてアレンは顔を顰める。

「そんな顔して笑っちゃ駄目さ、アレンは、全くぅ! アレンの方が普通なん! ユウが言葉が足りないのは欠点さ! ユウに無理に合わせるのが、好きって証拠じゃないだろ? 何でアレンはいっつもユウの都合に合わせようとするかなぁ」


(そんなに好きさ?)

 結構、アレンに我が強い面がある事をラビは知っている。が、神田の事になると、少女みたいな目をして我を忘れてしまうのだ。そんな彼を見ていると、どうも最近胸が痛んで仕方がない。


「しかし、アレンでも駄目になると困ったさ。あいつと組めるのは俺とリナリーとマリのおっさん位 になっちまうもんなぁ。デイシャだと苦情が倍になるし、単独にするとユウの奴、無茶するばっかだし」
「でも、ラビ。神田は言葉がキツイだけで、悪い人じゃないですよ。いい所が見えにくいだけで…」
 ラビは思わず苦笑した。
「そんな事解ってるさ。ユウがどんな奴か位。
 俺は仕事上の事言ってんの。どんな時でも、ユウの性格じゃ誤解を生むばっかりだもんな。それじゃ、みんなやりにくいだろ」
「あ、ああ。そうですよね」
 赤くなったアレンを見て、ラビは笑う。ぎゅっと抱き締めた。

「かわいいな、アレンはぁ。お前ってホント任務に私情入れまくり」
「だ、駄目ですよね、そういうの」
「うん、駄目。仕事は」
 ラビはアレンの額をつつく。
「でも、俺はそんなアレンが嫌いじゃないけどね。
 ユウの事はお前ら二人の問題だろ? 俺は知らないもん。夫婦ゲンカは犬も食わねぇって」
「もう、ラビってば」
「とにかくコムイに報告に行くんだろ? 俺もつき合うさ。ユウの事もついでに相談したら?」
「そうですね」
 アレンはラビの笑顔にホッとして頷いた。

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