「まぁ、神田君の事は前から問題になってるんだよね。でも、あれで、ああいう所もかわいいんだけどねぇ」

 コムイはコーヒーを飲みながら笑った。
「コムイはいっつもユウに甘いさぁ」
 ラビは呆れて言った。

「そりゃ、余裕があって端から見てる分にはいいだろうけどさ。一緒に仕事するとなると、ギスギスしてストレス溜まりまくりだぜ、コムイ。職場の軋轢を何とかすんのも、あんたの仕事じゃねぇ?」
「言って直るなら苦労はしないよ。ま、だから僕もこういうのを作ってみました」
 コムイは二人の前に小さな卵型のものをコトンと置いた。

「何です、これ?」
 アレンはそれを手に取った。色はオレンジ。鶏卵そっくりの大きさで、真ん中に画面 がついている。リセットとか保存とか小さなボタンがいくつか付いているだけのシンプルな装置だ。


「ユウリンガル」


 コムイは自信に満ちた顔で告げた。
「ユウリンガル?」
「使い方は至って簡単。そうだねぇ、ラビ。アレン君に何か話してみて?」
「話すって何をさ?」
「アレン君の事をどう思ってるか考えながら、何でもいいから短い言葉を言ってみて」

「え〜? んじゃ『好きさ、アレン』」
「えっ、ラビ?……」
 少し赤面したアレンとラビは画面を見て驚いた。

『アレンてば、ホントかわいいよなぁ。ユウの事なんて放っておいて、俺とつき合ってくんないかな。コート脱ぐと細っこくて、抱き締めたら折れそうなんだもん。たまんねぇよなぁ。
 悩み聞くって事で一日デートも悪くないさ。図書館に連れ込んで、いっそ喰っちまお…』

「わーっ!」
 ラビは慌ててアレンからユウリンガルを取り上げた。アレンとラビの間に気まずい空気が流れる。


「凄いでしょう、それ? 仕事柄、君達、世界中を旅するでしょ。で、英語の通じない所で困らないように、自動翻訳機作ろうと思ってさ。相手の脳波を感知するソナーつけたら、言葉の裏側を表示するようになったの。
 これなら、言葉の少ない神田君のフォローにピッタリ!」
「………こ、言葉の爆弾じゃねーか、一歩間違うと!」
 ラビはアレンの刺々しい視線を気に止めないよう、必死で勤めながら言った。


「そーお? 僕からは見えなかったけど、そんなに危ない事思ってた訳、ラビは?」
「ち、違うっ! 俺、こんなの思ってないさ! 大体あの一言でそんな長い意味が出てくんの、おかしくねぇ?」
「脳波感知だからねぇ。みんな、言葉に色んな意味を込めてる訳じゃない? 神田君にはこれ位 でないとねぇ。うふふ、ちょっと敏感過ぎちゃったかなぁ」
 ラビはこっそりリセットを押してみた。コムイの言葉が『翻訳』されてくる。

『もぉーこいつらったら、この位解らないのかぁ。やっぱり僕は天才だよね。こいつら愚民だよ、愚民。
 リナリー、いつ帰ってくんのかな。アクマ退治なんて、こいつらゴキブリに任せてリナリーをずっと僕の側に…』


「…………」
「…………」
 二人は冷えたまなざしでコムイを見つめ、リセットをプチッと押す。

「対象外の人に向けて使うと危ない、って事ですね」
「使用上の注意をよく読んで、か」

 二人はコムイに礼もしないで立ち上がる。


「えっ、えっ、二人とも僕に向けて押しちゃ駄目だよ〜。あれっ? 何書いてた? 僕のこと何て書いてたのー?」
 取りすがるコムイの叫びに耳を貸さず、扉はバタンと閉まった。


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