「サムライって知ってる? ユウは多分そうじゃないかと俺は思うんだけどさぁ。夫が出かけている間、妻は気丈に家を守るなんて風習、教えもしないで英国人に解るかっつーの。
 これだから、日本人は……アレン?」
『妻』という単語にボーっとなっているアレンをラビは軽く叩いた。
「は、はい?」
「そんな言葉に惑わされちゃダメさ、もう!  だから、アレンはダメンズ=ウォーカーなんて言われるんさ」
「ダメンズ=ウォーカーは、ひどいなぁ」
 アレンは唇を尖らせた。ラビは肩をすくめる。
「ユウみたいな俺様人間、甘やかしてもアレンが振り回されるだけで、しんどくなるばかりだろ? クロス元帥で身に染みたんじゃねぇの?」
「師匠を矯正できる人間なんかいませんよ」
「元帥とユウは違うさ、アレン。全くハードルが高い人間ばっか、何で好きになるのかなぁ。
 だからこそ、最初の躾は肝心さ。して欲しい事、して欲しくない事はちゃんと言う!黙って相手の都合ばかり会わせてばかりいちゃダメさ。特にユウみたいのは言わないと解らないから。
 もう、何で俺がここまで言ってやらんとならないさぁ?」
「は、はぁ……」
 アレンは困ったように項垂れている。ラビは思わず苦笑いした。肩を引き寄せて、また頭を撫でてやる。
「まぁ、急には難しいだろうけどさ」
 アレンはクスッと笑った。
「ラビは優しいですね。どうして、いつもそんなに僕達の事にそんなに親身になってくれるんですか?」
「え?何故?……何故って…」
 ラビは思わず口ごもった。ラビはアレンを次のバレンタインまでに落とす競争をしようと神田に一方的に宣言していた。
 だが、アレンを落とす以前に、二人の体たらくがイライラして仕方がない。何で神田はもっとアレンを大事にしてやらないのだろう。自分だったら、絶対アレンにこんな顔をさせやしないのに。だから、つい彼らの世話を焼いてしまう。
 だが、結局それは二人をくっつける事になる事ではないかと思うのだが、揺れているアレンにつけ込むような真似はしたくなかった。
 それにアレンが憂い顔を見てると何とかしてやりたい。彼の笑顔を見たい。
 その欲求につい動かされてしまう。

(やれやれ、俺は相当アレンにイカレてるさぁ)

 ラビはそんな自分に内心笑った。

「アレン達が好きだからさ」
 ラビは本当の事を言った。嘘は真実に隠すのが一番いい。
「ホントに?」
「ホント」
 アレンは笑った。ラビの肩に頭をもたせかけてくる。その重さをラビはじんわりと受け止めた。


『右手に世界。左手に恋人を抱く。世界と恋人の重さは一緒だから、バランスが取れて、どんなに重くてもツラくない』


 そう言ったのは誰だったろう。

「僕もラビが好きですよ。毎朝ラビにキスするたびに思うんです」
 アレンは呟いた。
「ラビとなら、僕はいつも笑ってられるのかなって」
「……そうすりゃいいのに」
「……そうですねぇ」
 後の会話は囁くように小さい。

 初夏の日差しの中、二人はそれ以上動かずに、彼らだけの庭にいる。


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