「春謳う猫」 9
「こ、この先、知ってるの、徹ちゃん…?」
「……すまん…全然知らねぇ…」
徹の情けない声が降ってきた。キスだって初体験だったのだ。
こればかりは夏野もどうしようもない。
万事休す。徹は夏野の上に突っ伏した。
下腹部が痛い程脈打っている。
刺激を求めて、また腰を軽く触れ合わせながら、二人は途方に暮れた。
一つになりたい。
でも、男同士でどうするかなど全く知識がない。
「ど、どうしよ…」
「うん…」
そう言いながら、徹は夏野を放さない。
吐息が肌を擦れるのすら熱くて狂おしい。体温が沸騰しそうだ。
(どうしよう…)
徹は逡巡した。男女なら何となく知ってる。
お節介な年長者は無知で初心な年下の少年をからかいながら教えるのが好きだ。
性的に未熟な者に物を教えるのは、少女を汚す悦びに通じるからだろう。
でも、男にはあるべき器官がない。
徹は震えてる夏野のうなじに軽く唇を押し当てた。
電話はあるが、パソコンはない。携帯もネットもない。エロ本やビデオは隣町しかない。
ラブシーンがTVで流れるだけで、家族中がいたたまれない雰囲気になる。そんな時代である。
『お釜を掘る』という言葉だけが徹の知ってる精一杯だ。
だが、夏野の腰は細くて、入り口は狭い。ただ散らすには、余りに痛々しかった。
最初が痛いのは、男女とも同じだと思う。
でも、徹は夏野を出来る限り傷つけたくはなかった。
交わる事に恐怖感を植えつけたくない。
一方的に自分だけが満足して終わりたくもなかった。
(ああ、だけど、俺は夏野が欲しい)
欲しくって欲しくってたまらない。
狂おしいほど抱き締めて自分のものにしたい。
ただ傍にいればいいなんて生ぬるい事は、この熱情を知ってしまった後はまるで意味をなさなかった。
体が焼け付くようだ。眩暈がする。
(でも、どうすりゃいい…)
夏野に挿れたい。一緒にイキたい。夏野の熱を一杯に感じたい。
考えられる場所としたら、あそこだけだ。
(いっそ、このまま思い切って挿れてみるか?)
徹は唾を飲み込んだ。男は度胸だ。
案ずるより生むが安しで、意外とうまく入ってしまうかも知れない。
指が夏野の腰を彷徨った。割れ目にそって指を這わす。
そっとそこに触れた。
「あっ…」
夏野がサッと緊張する。
徹は慌てて指を引いた。
触れられると考えた事もない場所に、いきなり触れられて嫌だったのだろう。
夏野が責めるような目で睨む。サッと背を向けられた。
「…ごめん、夏野、ごめん…」
徹はうなだれた。背後から抱き締める。
謝るように頭や首筋に幾度もキスをした。
自分勝手だった事を心から後悔する。
夏野は何も言わない。
怒らせたけれど、完全に身を引かないのは徹を嫌った訳ではないのだろう。
夏野だって解ってる。奥に触れられた事で悟った筈だ。
ただ、怖いのだ。他人を受け入れる事は容易ではない。
引き裂かれる恐怖に耐えるのは並大抵の事ではないだろう。
初めてなのだから、繋がる事に拘る必要はないのではないか?
さっき一緒に握って愛撫し合うだけでも充分融け合う感じがしたのだし。
(駄目だよな、やっぱ…)
諦めかけた時、徹は夏野の臀部と太腿を自分のものが濡らしてるのに気づいた。
体液でヌルヌルになってしまってる。
程よい弾力のある腰と、しなやかな綺麗な脚。体も全身火照って熱いままだ。
試しに合わさった太腿の隙間に指を滑り込ませた。
夏野がくすぐったそうに身を捩る。
だが、充分熱い。張りのある肌が吸い付くようだ。
(そうだ、これがあったっけ…)
タバコ屋の爺ちゃんが酔っぱらった時漏らした話。
村の大人同士の話は下世話で、だからこそ実用的ではある。
「夏野…足ギュッと合わせてろ。出来るだけキツく」
「え、何?」
夏野が当惑する間に、徹は夏野の臀部と太腿の付け根に自分のものをグッと押し込んだ。
濡れそぼった体液が侵入を容易にする。
夏野が作る肉壁が徹を包み込んだ。
大腿骨の硬さと太腿の柔らかさと熱さが合わさって絶妙だ。
(う…凄ぇ…。爺ちゃんの言う事もまんざら…)
しかも夏野の身体という事実が徹を駆り立てた。
何をされてるか解らず、夏野が蠢くその動きすら快く徹を刺激する。
引き締まったしなやかな肌が貫くたび絡みつくようで、鋭いほどの悦びが背筋を駆け抜けた。
貫いた先には夏野の陰嚢と陰茎がある。グイと下から擦り上げた。
「うあぁ…っ?」
予期してない場所からの衝撃に、夏野はビクリと身を反らせた。
グッグッと徹が下から擦り上げてくる。
突き上げてくる甘い疼きの理由が判らず、夏野は指を噛んだ。
「あ…? 何?」
「…ここも夏野の中…だから…」
徹は耳元で囁いた。見下ろすと、結合部は滲み出た体液で女のように濡れている。
その光景に徹はゾクリとした。より強く突き上げる。
「あっ、あ! 徹ちゃ…ん?」
夏野は息を荒げながらシーツにしがみ付いた。
「ああっ、はっ、やだ…。何、これ…っ」
夏野は混乱した。臀部と太腿の隙間に過ぎない。
本当に一つになった訳ではない。
だが、それでも徹が自分の隙間に入ってくる。
徹が確かにいる。その存在感がはっきり解る。
自分の中で脈打っている。
同時にもたらされる凄まじい快感に夏野は怯えた。
苦しい程の羞恥と快楽に震える。
(こんなとこで…こんな…)
思わず逃げようとする体を徹は上から押さえ込んだ。
「徹ちゃんが…徹ちゃんが…いるっ…! 俺の中に…っ」
「そうだ…バカ。逃げんなって、夏野…っ」
「だって、こんなとこ…変だ」
「でも…気持ちいい…だろ? 一つに融けたみたいで」
徹はギュッと夏野を背後から抱き締めた。
夏野を擦ってる自分のものと夏野のものを同時に握る。
先端を指で擦った。
「はっ、あ…徹…ちゃ…」
幾度も扱かぬ内に、夏野の体がグラリと融ける。
徹はその反応に微笑むと、扱きながらゆるく突いた。
その心地よさに夏野は目を細める。
「んぁっ、はぁ…ん」
徹は夏野の耳を甘噛みしながら、開いた唇に指を入れた。
夏野は喘ぎながら、赤ん坊のように指を吸う。
飴のようにしゃぶり、軽く噛んだ。
徹の指がおいしく感じる。
とろんとした目でひたすらしゃぶった。
(かわいい…)
「夏野……夏野…っ」
切なさで一杯になりながら、今度はゆるく強く突き上げる。
胸の紅い突起を軽く捻った。
夏野はビクンと震える。
そのせいで太腿の内側がキュウッと締まった。
そのうねりの心地よさに徹は目を閉じる。
「いいぜ…夏野…」
徹は熱っぽく囁いた。突起を、うなじを、夏野の感じる場所を的確に責めていく。
「ふ…あああっ、あんっ!あ!あ!」
夏野は必死に首を振って、過ぎる快感をこらえようとした。
肉がぶつかり合う音と、コリ…と恥骨や体内の前立腺まで擦っていくたまらない悦楽に気が変になりそうだ。
「くっ、ん…っ、あ、あ」
徹が自分の中で膨れ上がっていく。熱く脈打っている。律動する存在感。
まるで本当に挿れられているようだ。
「ぁ…ん…っ。はぁっ、ダメ…っ」
徹が擦り合って真っ赤に熟れた太腿に腰を穿つたび、夏野は声を上げた。
体が痙攣を起こしたようにひくつき、痺れる。
初めての嵐に翻弄されて、もうお互い自制が効かない。
汗と体液がシーツに飛び散る。触れ合った部分が全て溶鉱炉のように灼けている。
太腿も握りこまれたものも一つに融けて熟して弾けそうだ。
でも、まだ足りない。もっともっと強く触って欲しい。二人の境目をなくしたい。
夏野は自分の手を徹に重ねた。
二人でお互いのものを握りこむ。
徹に感じて欲しい。一緒にイキたい。
その想いを感じ取ったのか、徹の動きが一段と激しくなった。
荒々しい程、息を乱して夏野を求める。
「徹ちゃん…徹ちゃん…っ」
夏野は喘いだ。必死に名を呼ぶ。そうでないと体がバラバラに砕けそうだ。
太腿の間がヌルヌルの上、二人の動きが激しいので抜けてしまいそうで、必死に挟む。
徹も離されまいと夏野の臀部を痛い程握った。
その指の強さすら心地いい。夏野はその手に自分の手を重ねた。
(嫌だ…徹ちゃん、俺から出ないで…)
ずっと一つでいたい。
徹の熱を感じたい。
自分の熱を吐き出したい。
二人の中に溜まってるものを全部。
身体が小刻みに震える。頭が真っ白になる。
「…夏野っ!」
切れ切れな声が夏野を呼ぶ。
頭蓋骨の中で心臓が跳ね回ってる。
体中が電流を通したようにビリビリしている。
足先がシーツを蹴った。つま先が縮む。
ただ頂点まで激しく昇り詰めた。
「あっあっあ――――っあ!」
絡まる指を二人の白濁の液が濡らした。
|